教皇の目論見

聖堂を通り教皇の部屋へ向かう。
取引していた兵士を待つためか、門戸は開かれて待ち受けていた。
来訪者に気付き、教皇が来訪者を見やる。

「遅かったな」
「そりゃ、どーも失敬!」

が、そこにいたのは目当ての人物ではなく。
ゼロスを筆頭に、一行が教皇を取り囲み追い詰める。

「く……お前達、どうしてここに……」
「あんたに聞きたいことがあるんだよ」
「陛下に……毒を盛ってるな?」
「……知らんな」

案の定、とぼけた振りをする。
確認するまでもなく、はっきりと教皇と言われていたのだ。はいそうですかと引き下がるわけがない。

「本当にツラの皮が厚いなぁ」
「解毒薬はないのか」
「……知らん!」

往生際の悪い教皇に、プレセアが斧を向ける。

「動かないで……」
「じゃあこの毒薬はあなたに飲んでもらいましょう。どうせすぐに効く毒ではないようだし……」

斧と毒を差し向けられ、教皇はあっさり観念した。

「……わ、分かった! 机の引き出しの中だ!」

言われた通り、デスクを検めると。

「ありました〜」

解毒薬はこれで手にできた。
そして、用はまだ済まない。

「……ボクもあんたに聞きたことがあったんだ。どうして、ケイトさんを処刑しようとしたの! あんたの娘なんでしょ!」
「……う、うるさい。お前に何が分かる」
「分かんないよ! 分かんないから聞いてんだ。ばっかじゃないの!」
「ハーフエルフの娘を持つあんたが、どうして率先してハーフエルフを虐げる決まりを作るんだ」

教皇は、自分の気持を吐露する。

「ハーフエルフか……。わしだって若い頃はハーフエルフを虐げる制度は間違っていると考えていた」
「だったら、何故ですか。教会は全ての人々に救いの手を差し伸べるためにあるのでしょう」
「お前達には分かるか? 自分だけが老いていき、同じ血が流れている筈の子供は老いることがないという恐怖が」

若い頃は、ハーフエルフの子供を持てるほどにその志があったのだろう。だが、年月が、自らの老いが、それを変えてしまった。
レイラは、その逆の立場を味わされてきた。その気持ちは何となく、分からないことはなかった。

「そんなの、ケイトのせいじゃない。ハーフエルフは……そういう生き物なんだ」
「そうだ! だから疎まれる! わしは……自分の娘がハーフエルフだからこそ、彼らを虐げる者の気持ちが分かるのだ。恐ろしいのだよ、娘が!!」
「……あなたの気持ちは、少しだけ、ほんの少しだけ分かる。……ですが、恐怖を抱いたからといって、虐げることを正当化してはいけない……」
「そのような綺麗事がまかり通る筈がなかろう!」

これ以上話をする気はないのか、教皇は通信機を鳴らす。

「今、兵を呼んだ。ここで神子が死ねば教会は名実共に私の配下となる」
「神子無しでマーテル教会が保てるものか」
「ふん。セレスがおるわ!」

教皇の目論見としては、ゼロスを殺し、一族から別の者を神子に据えて傀儡にするつもりだったのだろう。
そのために出てきた名を耳にしたゼロスが、怒りを募らせた。

「……やっぱり妹を巻き込むつもりだったか。このひひじじいめ」
「神子がいけないのだ! お前のようないい加減な男が何故神子なのだ! お前さえいなければ私のハーフエルフ追放計画を邪魔する者はいなくなったのに!」

教皇は自らを正当化するが、もはやそれは私欲でしかない。

「人間は……どうしてボクたちを邪魔にするの……」
「異端の者は排除される」
「ふざけるな! ハーフエルフだろうが何だろうが、この世に生まれてきた限り誰だって何だって、そのまま生きてていいんだ!」

駆けつけた兵士が、部屋に入ってきた。

「う、動くな!」

兵士に気を取られた、その隙に教皇は逃げ出していった。

「おいおいおい。このままじゃ教皇に逃げられちまうぜ!」
「私が払います」

プレセアが迫ってくる兵士を払う。
逃げ出した教皇を追いかけて、城内へ入っていった。

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