解毒

解毒薬を手に、国王の寝室に入ると、王女ヒルダが立ち塞がった。

「ま、待ちなさい!」
「姫。陛下に会わせてください」
「スピリチュアの再来か何か知りませんが、お父様は病なのです。お父様はただ、テセアラを護ろうと……」
「……分かっていますよ。陛下は教皇に毒を盛られていた。ご存知ですか?」
「まさか……」

状況が分からないながらも国王と守ろうと頑なになっていたヒルダが動揺する。

「本当だ。教皇のヤツはそれを追及されて逃げ出した」
「急いで解毒しなければ。どこをどいて」

動揺を隠せないながらも、ヒルダはおずおずと道を開けた。
皆は国王の傍らに寄る。毒で弱っている国王はこの騒ぎの中でも目を覚ましていなかった。

「この解毒薬で間違いなさそうね」

毒の効きの緩やかさに反して、解毒薬はすぐに効果を見せた。
国王が意識を取り戻す。顔色はまだ良くないが。

「お父様!」
「……むぅ……これは……」
「意識が戻ったみたいだな。陛下、俺が分かりますか?」
「裏切り者……ゼロス。私を殺しに来たか……」

教皇に余計なことを吹き込まれていたのだろう。ゼロスに敵意を見せる。

「それは違うぞ! ゼロスはあんたを助けたんだ!」
「裏切り者、ね。こいつは俺さまにお似合いだ。まあとにかく俺たちは教皇に陥れられただけだ。テセアラに仇なすつもりはない」
「たとえ王室がそれを疑った所で教会と兵と民は神子ゼロスの味方をするでしょうね。こちらにはスピリチュアの再来もいることだし」

自らの置かれた立場を理解した国王は、即座にこちらに従う判断を取った。

「……何が望みだ」
「王室で保管しているという勇者ミトスとカーラーン大戦の資料を見たい」
「資料は2階の書庫に保管してある。好きにするがいい……。しかしもう二度とわしの前に姿を見せるな。わしは……疲れた。教会との権力争いはもうごめんだ」

本来ならそう安易に公開してはならないものにあっさり許可を出す。
権力争いのために毒まで盛られて、国王は酷く消耗しているようだ。身体的にも、精神的にも。

「勝手なことを!」
「いいんだよ、ちび。じゃあ陛下。勝手に見させてもらいますよ」

わざわざここまで来た目的は果たせた。もう国王に用はないのだ。

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