永続天使性無機結晶症

書庫はそれなりに広い部屋で、壁という壁が資料で埋め尽くされている。
その中から、あるかどうか分からない永続天使性無機結晶症についての資料を探しださねばならない。

「……よし、手分けして資料をあたろう」

全員で資料にあたっていく。

(これは当時の騎士団について……。騎士団長の記録とかはいらないってば)

手当たり次第に資料を手にとっては目を通していく。全然関係ない記録などが大半だ。
当時の疫病に関する記録も見つけたが、永続天使性無機結晶症の記述は見当たらなかった。
マナの守護塔でも膨大な資料から目当てのものだけを探す作業はしたことがあったが、あの時とは数が比べ物にならない上、目的のものが明確ではないためいちいち目を通さねばならない。

かなりの時間をかけて、資料が大量に積まれていくが、一向に見つからない。

「……だめだぁ!」
「これだけ探しても見つからないなんて……」
「他に資料はないのかい?」
「……諦めないぞ。まだ何か、手がある筈だ」

コレットが申し訳なさそうに肩を落とす。

「……ロイド。ありがとう。でも……もういいよ」

資料を片付けるつもりか近寄り――転んだ。
巻き込まれた資料の山は崩れてしまう。
崩れた資料の中で、一際異質なものがリフィルの目に留まった。

「……これは……天使言語……いえ、エルフの古代文字ね」

天使言語より更に古い、文字通りの起源の言葉だ。リフィル以外には読めないものだ。
それに目を通していくと。

「……待って。これかもしれないわ!」

それらしい記述を発見したのか、リフィルが更に詳しく解読していく。

「まさかこんな形で手がかりが見つかるとは」
「コレットのドジは本当に祝福されてるみたいだね」

コレットが恥ずかしそうにする。実際何かとコレットのドジは良いものをもたらすので否定できない。

「先生、何て書いてあるんだ?」
「……待って。
――クルシスの輝石の侵食を防ぐため、マナの欠片とジルコンをユニコーンの術で調合しマナリーフで結ぶルーンクレストを作成した。中枢にマナリーフの繊維を利用することでバグによるクラッキングから――ああ、ここから先は原理になるのね」
「ええっと、つまり、マナの欠片とジルコンとユニコーンの角があればいいのかな?」
「後マナリーフね。これでルーンクレストとかいうものを作って要の紋に取り付けることで輝石の働きを抑えることができると書いてあるわ」
「そんなもん、誰が作るんだ?」
「そりゃ、ドワーフだろうよ」

要の紋に手を加えるとなると、ドワーフの領分だ。

「コレットさんの体はどうなってしまっているのですか?」
「永続天使性無機結晶症……と書いてあるわ。アルテスタの診断通りね。全身がクルシスの輝石になってしまう病気なんだわ」
「よし、希望が見えてきたぜ!」
「でもあまり時間はなくてよ。永続天使性無機結晶症は最終段階の皮膚結晶化の発症から、およそ数ヶ月程度で全身が輝石になるようなの。完全に皮膚が輝石化すると、次は内蔵器官が輝石化して、最終的には……」
「……死ぬんですね」
「取り繕っても仕方ないわね。その通りよ」

コレットの状態はコレット自身が自覚していることだ。皮膚の結晶化が最初に起きたのは恐らくオゼットで体調を崩した時だろう。そこから拐われて救出、精霊の契約、それなりに時間が経ってしまっている。

「だったら急ごうぜ。可愛い子はより長生きしなくちゃなぁ」
「材料は……どこにあるんでしょうか」

かなり特殊な素材の数々だ。おいそれと入手できるものではない。

「ジルコンなら、以前我が社で扱っていた筈だ。レザレノの本社に行けば資料と在庫の保管場所が分かるだろう」

ジルコンは問題なさそうだ。

「マナリーフは……恐らくヘイムダールにあるわ」
「エルフの里?」
「ええ……子供の頃、その草の名前を聞いた気がする……」
「だが、ヘイムダールはエルフ以外の立ち入りを禁じている村だ」
「何でだ」
「昔、人間との間にいざこざがあったらしいぜ。今じゃテセアラ王の許可証を持つ者だけが入れるみてぇだな」
「王様……許可証を下さるかなぁ……」
「さあな。俺さまの顔を見たくないらしいし、ヒルダ姫にでも頼んでみるか」

リフィルの確実性の欠ける微かな記憶に、下りるか分からない許可。不安が残る。

「じゃあマナリーフは何とかなるとして、マナの欠片は? 一体どんな物なんだろうねぇ?」
「昔少しだけ聞いたことある。デリス・カーラーンはマナの塊だから、マナが欠片として採れるって。配布もしているらしいけど、私には必要なかったから詳しくは聞かなかったな……」
「ってことは、デリス・カーラーンにあるってことか?」
「……多分。それと同じものかは分からない」
「敵の本拠地だしな。そっちは後回しにしよう」

マナの欠片の入手はかなりの危険が伴いそうだ。
ひとまず、レザレノ・カンパニーとヘイムダールからだ。

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