晴れない気持ち

ヘイムダールへの許可証を得るため、ヒルダに話す。

「父は……誰にも会いたくないと言ってます」

ゼロスどころか、完全に面会謝絶の状態らしい。

「でも俺たちはヘイムダールへ行かなきゃならないんだ。ヘイムダールへの許可証は王様しか発行してないんだろ」
「姫からお口添えしていただけませんか?」
「……ゼロスがそこまで言うのなら、父に頼んでみます。少しお待ちなさい」

ゼロスの頼みと受けて、ヒルダが動いてくれた。

「許可証が貰えたとしても……ヘイムダールはエルフ以外の生き物に冷たい村よ。マナリーフを分けて貰えるかどうか……」
「……何としても分けて貰うさ」

ヒルダが無事説得できても、今度はエルフを説得しなければならない。マナリーフへの道のりは遠い。
程なくして、ヒルダが戻ってきた。その手には書状を携えている。

「これが父からヘイムダールへの書状です。これがあれば村へ入れるでしょう」

無事に、国王を説得できたらしい。

「ありがとう!」
「姫、感謝しますよ」

書状を受け取る。これで第一の関門はクリアだ。ヘイムダールへ入れる。

ふぅ、とレイラは溜め息を吐いてしまう。

「な〜に、レイラちゃん、溜め息なんて吐いちゃって」
「……ちょっと、ね」

ここまで、一気に気苦労が溜まった。先への心配もある。
が、それは平気だ。コレットの苦しみに比べれば、些細なことだ。それに、何も見えなかった時に比べれば原因と治療法が分かり随分前進した。

――が、それとこれとは別に。

「教皇の私欲のために疎まれて、身内まで利用されかけて……しかも、教皇のせいで国王からも嫌われて……って思うとね」
「おいおい、俺さまの心配? お優しいことで」
「……あなたが神子という立場で苦しんでるのは散々知らされてきてる。ただ、多くは教皇のせいじゃないかって思って」
「……言っとくがな、俺さまを狙うのは何も教皇だけじゃねえんだぜ」
「神子を疎んじる者はまだまだ多いだろうね。繁栄世界の神子は象徴としての側面が大きいから、尚更。……でも、教皇が余計なことしなかったら、ここまで酷くならなかったんじゃないかな」

ゼロスは黙る。きっと否定はできないだろう。教皇がいなかった所で別の誰かが執拗に命を狙っていたかもしれない。だが今のゼロスの人生がこんなことになってしまったのは、教皇に因るものが大きいだろう。

「で? それを言って俺にどうしろって?」
「どうもしないよ。私が教皇を許せないって思うだけ」

どうしても鬱屈した気持ちが晴れなくて、吐き出した。ただそれだけ。

「……何で、そこまで思えるんだ」
「何で、って……」
「確かにそれだけの理由はある。だが……レイラにとって俺は到底許されないことをしている。なのに、何で俺のためにそこまで思えるんだ」

今も、クルシスに内通して、ロイドたちを危険に晒している。ゼロスさえどうにかすれば解決するのに、口を閉ざすどころかゼロスのことを想う始末。
その理由が、分からないのだろう。

「そんなの……」

簡単なことだと答えようとして、答えが、出てこない。ゼロスが哀れだと思ったから、にしては気にかけすぎている。
自分がここまでゼロスを想う理由。その明確な答えが自分でも分からない。

「……何で?」

新たな疑問が、また生まれるだけだった。

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