決闘の約束
まずはすぐに済む方から片づけることに。レザレノ本社へ赴く。
ジョルジュにヴァーリの死を報せると、非常に喜んでいた。
資料室で過去の採掘の資料を読み漁る。
「ジルコンの最後の出荷は……」
手に取り読もうとした時、手から資料が忽然と消えた。
「な……何だ……?」
振り返ると、そこにはくちなわが。資料を奪い取られてしまった。
「何だこりゃ?」
「くちなわ!」
どうやら、しいなたちを見て、何やら大事そうなものと見てとりあえず奪ったようだ。
「教皇は消えた。ヴァーリも死んだ。それなのにまだ俺たちを付け狙うのか!」
「……やっぱり、あたしのことを恨んでるのかい?」
くちなわの目的はしいなへの復讐。教皇もヴァーリもそのための手段で、失脚してもしいなを諦める理由にはならないのだろう。
「当たり前だ! お前のために俺の両親も里の仲間も死んだ。頭領は眠りに就いたまま10年以上、目を覚まさない!」
「ご……めん」
「……謝って済むものか! 俺は……お前を許さない!」
謝っても、取り返しはつかない。それで許されるわけではない。
しいなも、それを理解して、ある提案に出る。
「くちなわ! あたしが憎いなら……」
「しいな! 1人だけ犠牲になるって言うなら許さねぇぞ」
「違うよ。あたしが憎いなら、里の掟に従ってあたしと一騎打ちをしよう」
決着を付けようと、そう提案する。
「……お前が1人で俺に勝てるとでも思っているのか」
「どうするんだい。受けるのかい?」
「……よかろう。今ここでやるのか?」
「掟に従って評決の島で戦おう。それでいいかい、ロイド」
くちなわの恨みを、しいなの負い目を晴らすには、きっとこれしかないのだろう。
「……止めても無駄だな」
「ありがとう」
「……評決の島で待っているぞ」
くちなわが資料を手にしたまま去ろうとしていく。
「待っとくれ。その資料は返しとくれよ」
「これは決闘の約束の証だ」
「それがないと、コレットが死ぬかもしれないんだ! 決闘の証ならこれを渡すから」
決闘の約束だけして有耶無耶にしないための証。だが資料ではダメだ。それはすぐに必要なもの。
代わりに、鈴を差し出す。
「……それは?」
「コリンの……形見だ」
「……よかろう」
鈴と資料と交換する。
「もしお前が来なければこの鈴は握り潰してやるからな」
くちなわはようやく、この場から離れていった。
コレットが申し訳なさそうにしいなを見やる。
思えば、コリンを喪ったのもコレットのためで。今もコレットのために鈴を手放して。
「しいな……大事な物だったのに……ごめんね」
「いいんだよ。あたしがあいつに……勝てばいいんだ。もう……逃げないよ」
自分のしたことに向き合って、ケリをつける。しいなはその決意をしたようだ。
取り戻した資料に目を通す。ジルコンの最後の出荷先はサイバックの王立研究院だ。
王立研究院では、身の丈3メートルという死の天使が降臨し、神子に逆らう者を頭から喰い殺したなどという噂が広がっていた。
あまりに尾ひれがつきすぎて唖然したし、当の天使本人は呑気に自分のことだと気付かなかったが。
とはいえ、神子を恐れてジルコン自体はあっさり分けて貰えた。貴重な鉱石だし、断られるよりは遥かに良いだろう。