エルフの里
森を抜けて、ようやくヘイムダールに辿り着いた。
「……無事にここまで辿り着いたか」
どういうわけか、クラトスが待ち受けていた。
「何……! じゃあ、お前はやっぱりコレットの病気を治す方法が分かってたんだな」
「だから……どうだと?」
「どうしてだ! どうしてコレットを助ける手がかりを教えてくれた? それに、どうしてコレットの天使疾患が勇者ミトスの仲間と同じ病気だったと分かったんだ!」
疑問をぶつけるが、クラトスはそれに答えない。
「それを聞いてどうするのだ」
「それは……」
ロイドが言葉に詰まる。そしてそのまま、立ち去ろうとしていった。
「……時間がない。急げ」
それだけ、忠告して。
村に入ろうとして、門番に止められてしまう。
「ここはエルフの里。ハーフエルフはここを通ること罷りならん」
門番はリフィルとジーニアスを指す。
「そんな!」
「これはかつてハーフエルフに村を荒らされた我々の自衛手段だ。それが嫌なら人間の進入も許可できん」
リフィルが引き下がる。
「ロイド。私たちはここで待ちます。後は頼むわね」
ようやく辿り着いた生まれ故郷なのに、足を踏み入れることすら叶わないなんて。
さらに門番は掟の話を付け加える。
「一言言っておく。この村では英雄だと祭り上げられているあのミトスの話は禁忌だ。決してあれの話はするなよ」
「何で?」
「説明する必要はない。いいな」
エルフの里で、勇者の話が禁忌。繋がりが全く分からず、困惑する。
村全体に、閉鎖的な雰囲気が漂っている。来訪者は歓迎も忌避もどちらもされていない。無関心といった印象を受ける。
滅多なことで人間の訪れはないが、おそらく長寿な彼らにとってはそう珍しいということのほどではないのだろう。
族長に、マナリーフを分けてほしいと頼むが……。
「あれは我々エルフが魔術のために利用している大切な植物。滅多なことで生息地を教えるわけにはいかん」
断られてしまう。そう大切なものをおいそれと渡すわけにはいかないのは理解できる。だがこちらにも事情がある。
「……何とかならないのだろうか。その植物が無いと命を落とす仲間がいる」
「どういうことじゃ」
「病気の仲間がいるんだ。ええっと、天使こうか……」
「違う違う。確か永続天使性……」
「永続天使性無機結晶症」
「そう、それにかかった――」
「なんじゃと!」
病名を聞いた族長の目の色が変わる。
「……それはマーテルの……だからクラトスが……」
族長の呟きに、今度はこちらが驚く。
「何だって? 今マーテルって言ったのかい?」
「それにクラトスがどうしたんだ! クラトスは何をしに来ていたんだ」
「クラトスのことはいい。マナリーフの生息地はここから南東にあるラーセオン渓谷だ。霧深い山の奥にある。そこの奥地に住む番人にこの杖を見せなさい」
こちらの疑問に答えず、杖を差し出す。
「族長!」
「……人間、これ以上お前たちに話すことはない」
それ以上、族長は取り合ってくれなかった。
マナリーフの居場所は分かったが、クラトスがここに来ていた理由も、族長の呟きの意味も、何一つ分からないままだった。