兄妹
コレットの病にしても、世界統合にしても、クルシスの拠点に向かう必要がある。
その為に必要なのは、ゼロスのクルシスの輝石。それを取りに行くため、修道院にいるゼロスの妹に会いに行くことに。
ゼロスの姿を見て、セレスは目を丸くした。
「……お兄……、神子様、またふらふらしていらっしゃいますのね」
喜色を顕にした声色から、よそよそしい声色へ言い換えて出迎える。まるで、ゼロスを兄と思わないように自分を制しているような、そんな雰囲気がある。
クルシスの輝石を預けているくらいだから、相当仲の良い兄妹だと思ったのだが、そうではないようだ。
「よーう。お前に預けといたクルシスの輝石が必要になったんだ。返してくれ」
ゼロスもゼロスで、態度にどこかよそよそしさを感じる。
「……ご勝手に! どうせそれは、元々神子様の物ですわ」
「悪いな」
「用事がお済みならお帰りくださいませ。さあ、早く!」
「へーいへーい。あーいかわらず嫌われまくってるなぁ。俺さまかわいそー」
輝石を受け取ると、ゼロスは足早に部屋を出ようとする。
「あ……お兄さ……」
「ん? 何かな、可愛い妹よ」
「……何でもありませんわっ!」
「あっそ」
今度こそゼロスは部屋を出てしまう。セレスは出入り口を見つめ、ぼそりと呟く。
「お気をつけて……」
小さな声だが、部屋にいるままのロイドたちにはばっちり聞こえている。が、肝心のゼロスには聞こえていない。
「……聞こえなかったぞ、今の」
「べ……別に何も言ってませんわ! ですからお兄様に聞こえなくてもいいんですの!」
「あ、お兄様って言った」
やはり、明らかに兄として接するのを我慢している。
傍から見ている分には非常に分かりやすい。指摘されて、セレスは顔を赤くする。
「い、言ってませんわ! あんな人、兄なんかではありませんっ!」
怒ったセレスに、ロイドたちも追い出されてしまった。
部屋の外で、ゼロスが待っていた。
「どーよ。俺さま中々、愛されてるだろ」
「随分ひねくれた妹だな」
「そう言うなって。昔から体が弱くてな。それでもあいつのお袋は……いや、何でもない」
どうにも、2人の間には何かただならぬ事情があるのは察せられる。
そして、お互いがお互いを案じているのに、それが全く伝わっていないことも。
「セレスさん、気をつけてってゼロスに言ってたよ」
「……そっか。まあいいや。じゃあ行くんだろ。救いの塔に」
「……ああ!」
セレスのことはこれでいいと言わんばかりに、話を切り上げてしまった。
傍から見ていて、2人の態度はとても痛々しい。単なる仲の良い悪いの話ですらなくよそよそしいというのは、見ている方が辛い。