空虚な都市

人間がぞろぞろと町を歩いてる光景は天使たちの注目を集めるが、彼らは基本的に無関心だ。
生活感などといったものは全く感じられず、天使たちはただそこに在るだけ。生きているとも死んでいるとも、時間が進んでいるわけでも止まっているわけでもない。そんな、空虚な都市。
皆は、息苦しさを感じていた。ずっとここにいたレイラですら。

「心を失ったりはしていなかった……けど、前の私は天使たちと何も変わらなかったのかも」

目の前のことに何も感じず享受してきていた。それが当たり前のことであるとなど思ってすらなく、本当に何も感じていなかった。
きっとこれからここに戻って過ごそうとしても、無理だろう。耐えられず、死んだほうがマシだとすら思うだろう。
ゼロスがその呟きに、反応を返す。

「レイラちゃんも大概、人のこと言えねぇんじゃねえか?」
「……そう?」
「物心付いた時からこんな所にいて、いきなりほっぽり出されて襲われて記憶喪失。戻ってきたはいいが裏切って家族の間で板挟み……結構酷いもんだと思うぜ?」
「…………」

言われてみれば、それなりに酷い。今だって色んなことに悩まされている。

「うん……。でも、自分の人生を、酷かったとか、嫌だったとか思ったことはないな。勿論辛いこともあるけど……良いこともたくさんあるから」

ロイドたちと出会えたことに始まり、良いことはいくらでもあった。嫌なことだけで、自分の人生全体を嫌なことだと決めることはできない。

「良いことね……そんなことで帳消しになる程度って思ってるわけか?」
「帳消しになんてならないよ。どんなに良いことがあったからって、ずっとここにいたことが悲しいことなのは変わらない。『良いことも嫌なこともあった人生』っていうのが近いかな」

人生全体が幸せだったとも辛かったとも言えない。どちらかに決めることなんて到底できない。あえて決めるなら、その両方。

「なるほどね……そりゃ、敵うわけねえわけだ」

何か、納得した様子でゼロスは呟いた。

町で情報を集めていたところ、マナの欠片に関する嘘が天使たちに露呈し、咄嗟に緊急ルートを通り町から脱出した。
マナの欠片が手に入ればもう用はない。急いで、地上へ降りることとなった。

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