問答

巨大エレベータを作動させ、地上に降りると息苦しさは随分マシになっていた。
ここを抜けたら地上はもう目と鼻の先だ。

祭壇まで戻ってきた時、ロイドが祭壇に安置された剣を見やる。

「この剣は、確かユグドラシルが俺に斬りつけてきた剣……」
「……まさか、これが魔剣エターナルソード?」

オリジンの魔剣、エターナルソード。元は彗星だったデリス・カーラーンを繋ぎ止め、世界を2つに引き裂くのに用いられたという剣。

「おいおいおい。そんな大事な剣なら、こんな所に放ったらかしにしてねーだろ」
「これを持って帰って、ヘイムダールの族長に見せたらどうだろう」
「そうだね。そうすればはっきりするよ」

ロイドがエターナルソードに手を伸ばそうとする。が、

『資格無き者は、去れ』

剣から声が響き、ロイドは弾き飛ばされてしまった。

「いてててて……どうなってるんだ」

疑問に思うロイドに対し、嘲笑う声が上から下りてくる。

「無駄なことはやめるんだな」

いつの間にか、ユグドラシルが佇んでいた。

「……ユグドラシル!」
「資格無き者はエターナルソードに触れることすら叶わない」
「資格……だと?」
「きっとオリジンとの契約だよ! それはオリジンがそいつに騙されて渡した剣なんだろ」

しいなの推測にユグドラシルは再び嘲笑う。

「ふはははは! お前達は本当に愚かだな。……まあいい。オリジンはクラトスが封じている。どの道、お前にその剣は装備できない。エターナルソードの力が無ければ2つの世界を元通りに統合することもできない。お前達の旅は無駄なのだよ」

それが、ユグドラシルがロイドたちを特に妨害するようなことがなかった理由だろう。エターナルソードは手中にあり、決して奪われることはないためだと。

「無駄……だと! 無駄なことをしてるのはお前だろ! 死んだ人を生き返らせるなんて! 第一そのことと、世界を2つに分けることにどんな関係があるんだ!」
「……世界が2つに分かれているからこそ、世界は存続している」
「違う。2つに分かれているからマナが欠乏して、数えきれない人々が犠牲になってるんだ」
「考えてみろ。何故マナは欠乏しているのだ? どうだ? そこの我が同族よ」
「ボク……?」

ユグドラシルの視線の先はジーニアス。当のジーニアスは困惑しつつも、問いかけに答える。。

「えっと、魔科学の発展でマナが大量に消費されたから……?」
「そう……。そして魔科学は巨大な戦争を産み落とした。戦争はマナをいたずらに消費する」
「話をすり替えるな。お前が大いなる実りを発芽させないから、マナ不足も解消されないんだ」
「すり替えてはいない。大樹が蘇ったとしても、戦いが起これば、樹は枯れる。戦争は対立する2つの勢力があるから起こるのだ。だから私は世界を2つに分けた。あの愚かなカーラーン大戦を引き起こした2つの陣営をシルヴァラントとテセアラに閉じ込めるために」
「そしてマナを搾取しあい、繁栄と衰退を繰り返すことで魔科学の発展も抑えられている……という訳ね」
「もっとも今は、少々テセアラに傾きすぎだが」

戦争を直に見て、止めたユグドラシルの結論なのだろう。しかしロイドは、それを否定する。

「嘘だ。お前はマーテルを助けるために大いなる実りを犠牲にしてるんだ」
「そうだ。お前がコレットを救う為、衰退するシルヴァラントを放置しているようにな」
「……それは……」

言葉を詰まらせたロイドに代わりコレットが否定しようとするが、ユグドラシルは断言する。

「やっていることは同じだ」
「ち……違う……!」
「違わない」
「違う! ロイドはお前なんかと違う!」

ジーニアスに否定されて、これまで淡々としていたユグドラシルが初めて僅かに動揺を見せた。

「何……」
「ロイドは、コレットも世界も救える道を探してる。お前はそれを諦めた意気地なしだ!」
「同じことだ。私は何者も差別されない世界を作ろうとしている。それが世界を救う道だ」
「何者も差別されない国? それは……」
「人は異端の者に恐怖しそれを嫌悪する。自分と違う者が恐ろしいのだ。ならば、皆が同じになればいい。エクスフィアを使い、体に流れる人やエルフの血を無くせば、この地上の者は全員、無機生命体化する。差別は無くなる。それが、私の望む千年王国だ」

差別に晒されてきたジーニアスが、それに反応する。

「みんなが……同じ……」
「そうだ。ディザイアンもクルシスもそのために組織されている。差別を生む種族の争いは消えるのだ、ジーニアス」
「……差別されなくなるの? 本当に?」

ユグドラシルの甘言に乗りかかるジーニアス。
でもレイラにとって、それは酷く歪に感じられた。あんな世界が理想とは思えない。差別は確かに無くなるが、もっと大切なものも無くなってしまっている。

「ジーニアス! 騙されるな! そのためのエクスフィアはどうやって作られていた? マーブルさんみたいに誰かの命が削られてエクスフィアができるんだ。そんなの……おかしいじゃねーか!」
「……改革に犠牲は付き物だ。それが分からないならここで朽ち果てるがいい」

こちらを見下ろしていたユグドラシルが、目の前に転移してくる。

「ただし、神子は渡してもらう」
「……ダメだ! それだけはさせない!」
「ならば力づくで奪うまで」

ユグドラシルが、戦いを仕掛けてくる。

強力な相手だが、何とかかわしていく。
が、その最中、コレットが倒れてしまう。ユグドラシルの攻撃によるものではない。現に、ユグドラシルも驚き攻撃の手を止めてしまっている。

「コレット!」

イセリアの時点で肩周りだけだったのが、かなり結晶化が進んでしまっている。急いで治療しなければ。

「今だ!」

ユグドラシルの隙を見て、ジーニアスが攻撃する。
コレットに気を取られていたユグドラシルはその攻撃を防げず受けてしまう。
それと同時に、プロネーマが駆け付けてきた。

「ユグドラシル様! ……この小僧! 同族とはいえ、許せぬ!」

プロネーマがジーニアスに攻撃しようとする。
だが、ユグドラシルがジーニアスを突き飛ばし、術を受けた。

「ど、どうして……」
「ユグドラシル様!」

ジーニアスもプロネーマも、ユグドラシルの不可解な行動に戸惑う。

「プロネーマ! 何用だ!」
「……は。あの……例の件が動き出しました故……」
「……分かった」

プロネーマに答えたユグドラシルは、ロイドを振り返る。

「覚えておけ。……全てを救える道がいつもあるとは限らない。ロイド……お前の追いかける道は幻想だ」

そう言い残し、彼らはこの場から去ってしまった。

「どうして、俺たちを見逃したんだ?」

コレットのことより重要なこととは一体。それにジーニアスを庇った理由も分からない。
ジーニアスに対する態度は、単なる同族に対するというもの以上のものがあった。わざわざ千年王国に引き入れようと誘うほど。

何はともあれ、今はコレットの治療が先だ。すぐにアルテスタの元へ向かわねば。

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