治療
レアバードを全力で飛ばし、アルテスタの元へ向かう。
すぐに治療を行うことになり、その間他の皆は部屋の外で待つことに。
ロイドはずっと、部屋の扉の前で待っている。コレットが心配で、空気は張り詰めていた。
「コレットのヤツ、大丈夫かな」
「あたしたちにできるだけのことはしたさ」
治療法を見つけ、道具を集めてきた。後はアルテスタを信じて待つしかない。
リフィルなら治療法を完璧に覚えていてくれるだろうし、アルテスタもタバサを作り出せるくらいの腕前だ。大丈夫に決まっていると、レイラは何度も自分に言い聞かせている。
「そうそう。ロイドくん、まずはメシでも食って落ち着けよ」
「こんな時に食えるか」
気がつけば、食卓に料理が並べられていた。珍しく、ゼロスが作ったらしい。
「そんなこと言うなよ〜。ニンジン食う? ジャガイモは?」
不自然なくらいの笑みを浮かべて、食材をロイドに差し出す。
が、ロイドはそれを突っぱねる。
「……本当にいらねぇってば」
見るからに、苛立っている。コレットが心配で食欲などとても湧かない気持ちは、分かるのだけど。
「おいおいおい。ジーニアスといいお前といい、どうしてそんなに暗くなってるんだよ」
救いの塔を出てから、ジーニアスはずっと塞ぎ込んでいた。コレットが気になる、というわけでもなく何か別のことが気になっているようだ。
「そうだよ。どうしたのジーニアス」
「……ミトス……あのね? あの……」
その時、部屋からアルテスタたちが出てくる。
「治療は完了シました」
「コレットは!?」
「今は眠っておる。次に目覚めた時にはコレットの体は元通りだ。クルシスの輝石も完全に要の紋によって管理されるだろう」
「……よかった」
「そっか……これでコレットはもう苦しまなくてもいいんだな」
張り詰めていた空気が解ける。肩の力が抜ける気持ちだ。
そこに、能天気ともとれる声が。
「よーし! んじゃまーコレットちゃん全快のお祝いメシにしようぜ」
「……さっきからメシメシってうるせーなー」
「だってよ、俺さまたち親友だろ〜。ロイドくんが疲れてるんじゃないかと思ってさ」
ゼロスがロイドに抱きついて絡む。
「2人共仲がいいね」
「そ〜でしょ〜」
少なくとも、ロイドは振りほどくくらい嫌がってるのだが。
ミトスはジーニアスの様子を案じる。コレットの治療が終わっても、ジーニアスはまだ塞ぎ込んだままでいた。
「ジーニアスも、疲れてるの?」
「ボクたち……友達だよね、ミトス?」
突拍子もない問いに、ミトスも戸惑う。
「……え? うん、何言ってるの?」
「本当に友達だよね」
「う、うん……」
「ボク、信じてるからね」
「…………」
あまりの念の押しように、2人の間に不穏な空気が漂うようだ。
救いの塔に進入してからここまで、ずっと休み無しで動き続け、確かに皆疲労しているのは事実だった。
どこか釈然としないが、ゼロスの用意した食事でそのまま夕食となった。
食べていると、ロイドがいきなり船をこぐ。
「ん。何か、飯食ったら急に眠くなっちまった。俺、先に横になってるわ」
「食べてすぐ寝ると消化に悪いわよ」
リフィルが諌めるが、ロイドは本当に眠そうだ。
「大丈夫か? やはり疲れが溜まっているんじゃないのか?」
「大丈夫だよ。ちょっと横になるだけだから」
ロイドはそう言って寝室へ引っ込んでしまった。
「……ずっと気が張り詰めていたしね。思ったより疲れてたのかな」
コレットの治療に一番必死だったのもロイドだった。ようやく緊張の糸が解けて、疲れも押し寄せたのかもしれない。
(今は休ませて、それから落ち着いて話そう)
起こして話をするのも可哀想だ。疲れもとれて、落ち着いてから。それまで、レイラも休んでおくのが吉か。
「……ねえ、あんなに食べさせようとしてたのに、ゼロスは食べないの?」
「ん〜、俺さまはもう先に食ったからな。俺さまは気にせず、どんどん好きなだけ食べてくれたらいいからよ」
ずっと食事に手を付けず、皆が食事してるのを眺めているゼロスに声をかけた。
「ならいいけど……そうやって見られると、かえって食べにくいんだけど」
そもそも誰も頼んでないのに食事を自ら用意して食べさせるような殊勝な人だっただろうか、彼は。
どうにも態度に不自然さを感じるが、食べているうちにぼんやりしてきて上手く頭が働かなくなってきた。
いけない、自分も思っていたより疲れていたのかもしれない、と重い瞼を何とか開く。