父親
周りが何だか騒がしい。誰かが話をしているのだろうか。
少し目覚めたが、まだ眠気が占めている。立ち聞きも野暮だろうし、このまままた眠ろうと思った。
そう、思っていたのに――
「クラトスが俺たちの……親父なわけないだろ」
ロイドの酷く動揺した声と、その内容に、一気に目が覚めた。
「俺は信じない……信じられない!」
咄嗟に目を開きあたりを見ると、信じられない光景が広がっていた。
ベッドで眠ったはずなのに何故か自分は外にいて、レネゲードに拘束されている。
同じようにロイドとクラトスがレネゲードに囲まれていて、ロイドは何かを否定している。
「嘘……」
何が起きたか、悟った。
どうして、こんな形で。
2人が真正面から相対して、第三者によって告げられた。
考えうる限りでも最悪の形で、露呈してしまうなんて。
「実の息子にここまで否定される気持ちはどんなものだ?」
「……フ」
ユアンに問われたクラトスは、予想の範疇であったとでも言わんばかりの様子で、鼻で笑う。
「……その様子では、オリジンの解放に同意するつもりはないようだな。それならば……お前に死んでもらうだけだ!」
ロイドとレイラの首元に短刀が当てがわれる。
「ぐぁっ……!」
「うっ!」
「動けば子供の命はないぞ!」
抵抗しようにも、体が思うように動かない。何か盛られていたのだろうか。
「貴様は家族が出来て変わったな。15年前のあの時も、アンナを化け物に変えられてお前は抵抗の術を失った」
「……何?」
「アンナもお前に付いていかなければあのような姿になることもなかった。哀れな女だ」
ユアンの物言いに怒りが湧いてくる。母も父も、何も悪くはなかった筈なのに。
「母さんを愚弄するな!」
ロイドがふらふらとユアンの元へ歩み寄り、剣を振る。がユアンはそれを容易く避けて、ロイドに雷の魔術を放つ。
それを、クラトスが咄嗟に庇った。
「……クラトス?」
「……無事か? ……なら、いい」
糸が切れたように、クラトスは倒れてしまった。
目の前で起きたことが信じられない。
この人まで失ってしまったら。敵対したとはいえ、ずっと心の支えだった人が、いなくなってしまったら。
「い……いやぁっ! お父様!!」
レイラはパニックを起こしてしまう。
「やだ……! どうして、どうして……!」
こんな筈ではなかった。どうして、こんなことに。
どうせ混乱させてしまうのだから、ここまで引き伸ばさずさっさと話してしまえば。そうしたらロイドにこんな形で明かされることはなくて、クラトスが負傷することもなかったかもしれないのに。
「……う……うわぁーーーーー!!」
クラトスに庇われて、レイラの反応を見て、ロイドもパニックを起こし叫んでしまう。
流石に家の中まで届いたのか、扉が開かれる。
「ロイド? レイラ? どしたの! これは一体……」
何事かと出てきたコレットが異様な状況に驚く。
「俺は……俺は何を信じたらいいんだ!?」
「ロイド、しっかりして!」
「嘘だ! クラトスが……俺たちを裏切ってコレットを苦しめたあいつが……俺の父さん……!?」
「ロイド、自分を見失わないで! 誰の血を引いていても、どんな生まれだったとしても、あなたはあなたでしょ!」
コレットが、ロイドを落ち着かせるべく言葉をかける。かつてコレット自身が言われた言葉を、今度はロイドに返す。
「俺は……俺……?」
「どんな姿になっても、天使になっても、私は私だって言ってくれたのは、ロイドだよ! ……それにクラトスさん、ロイドを助けてくれたんだよ」
「……ああ、そうだな」
コレットの呼びかけの甲斐あって、落ち着きを取り戻したロイドはクラトスの元へ膝を付き、声をかける。
「ありがとう」
「…………」
まだ、クラトスは意識があるようだ。
「でもやっぱり俺は、あんたを父さんとは呼べない」
「ロイド……」
「あんたの……クルシスのやり方は嫌なんだ。今までたくさんの人が死んだ。シルヴァラントやテセアラの人も、レネゲードや……クルシスやディザイアンも、みんな犠牲になった人たちだ。でも、目的のためには犠牲が出てもいいなんて思えないよ。死んでいい命なんてない。死ぬために生まれる命なんて、あっちゃいけないんだ。俺はコレットを助けるために、世界を見殺しにはしない。最後の最後まで、みんなが生きる道を探したい」
それは、救いの塔でのユグドラシルとの問答に対する答え。何と言われようと、ロイドは諦めないことを決めたのだ。
「素晴らしくクサい演説だね、ご苦労さま」
その語りかけを、阻む声が割って入ってくる。