残された真相

後に残ったのは凄惨な状態だ。アルテスタは重傷を負い、タバサは壊れて皆が分からなくなっている。
リフィルはアルテスタの治療にあたっている。
同じくミトスの術を受けたユアンに声を掛ける。相当な重症の筈だ。

「……大丈夫か」
「これで我々の作戦は全て水泡に帰した……」

オリジンの封印を解く。そのための要のクラトスはクルシスの手に戻ってしまった。
ユアンも、裏切りが露呈して、もうクラトスと相見えることはできないだろう。

「オリジンと契約してエターナルソードを使うつもりだったんだな」
「そうだ。そして魔導砲であの禍々しい塔を破壊すれば大いなる実りは発芽する。それが我々の計画だった。一時はクラトスを動かすためのレイラを失い困難になったが、ディザイアンの内通者からロイドの存在を知り、これでまたクラトスを動かせると……」
「それで、私たちを人質のために狙っていたのですね」

クラトスにオリジンの封印を解かせるための人質。以前は流石にクルシスの目がある中で行動を起こすわけにはいかなかっただろう。そしてついに3年前、レイラがクルシスから離れてクルシスの目がなくなった。そこを拉致して人質として使おうとしたのがあの襲撃の真相だったのだ。それは結局失敗して、今度はロイドを使おうとしたと。

「お前は……ミトスの千年王国に賛同しなかったのか?」
「あの計画は、マーテルの遺言を歪めて捉えた結果だ。彼女が真に望んだ物ではない」
「マーテルの遺言はどんなものだったんですか」
「誰もが差別されることのない世界を見たい……と、そう言っていた」

マーテルの真意は、戦争を止めたがハーフエルフへの迫害までは止めることができなかった無念を、その後をミトスらに託そうとしたのだろう。
だが、ミトスはかつての理想とはかけ離れた千年王国の計画を立て、マーテルを蘇らせそれを見せようとした。
マーテルが、あまりに可哀想だ。
ユアンは動かぬ体に鞭打ち立ち上がる。

「動かない方がいい」
「いや。時間がない。ユグドラシルに殺される前にレネゲードを退避させねば」

去ろうとするユアンを引き止める。まだ聞きたいことは残っている。

「待ってくれ。オリジンの封印は、本当にクラトスにしか解けないのか?」
「そうだ。奴の体内のマナを放射することで、封印は解ける」

オリジンの封印を受け持ったのはクラトスなら、それを解けるのもクラトス。だが……

「そんなことをしたら、命を落としかねないぞ」
「そうだ。奴自身の命を懸けた封印だ」
「クラトスの……命……それとエターナルソードは引き替えだってのか!」

世界統合のためには、クラトスを犠牲にしなければならない。ここに、また犠牲が生まれてしまう。

「……ロイド。お前にエターナルソードを使うことはできないだろう。あれは、召喚の力を必要とはしない。ただオリジンに認められれば良い。しかしたった1つ、お前にはどうにもならぬ物がある」
「どういうことだ。ユグドラシル……ミトスもそれを言っていたけど」
「あれはハーフエルフにしか使えぬ。オリジンがミトスのために創り出した剣なのだからな」
「……そんな……」

種族を変えることはできない。ロイドにはどうあっても不可能だ。
今度こそユアンはこの場を去ってしまった。

気を落としてしまったロイドに声を掛ける。

「ロイド……ごめんね……私……」
「……前に言ってた、話ってこのことだったのか?」
「……うん……」

クラトスが実の父親であること。ようやく話せる時が訪れたと思ったら、それは別の形で明かされることになってしまった。

「最初は、絶対混乱するから黙ってたんだ。大丈夫だろうって時が来たら話そうと……」
「ああ……正直今も、混乱してる。レイラが正体を打ち明けてくれた時じゃ、多分もっと酷かったと思う」
「でもね……こうなったのは私のせいだと思う。今より混乱してたって、ここまでずるずる引き伸ばしてないで最初に話してたら、こんなことにならなかったと思う」

少なくとも、今の最悪の形での露呈よりは、早すぎだろうと面と向かって教えた方が絶対に良かった。

「レイラのせいじゃないよ。ちゃんと話そうとはしてくれてたんだからさ」
「ありがとう……。それで、こんな形になっちゃったけど、私から言いたかったのはね……。
いきなり、あの人を父親と認めることは難しいと思う。私も、無理に認めてとは言えない。だから、落ち着いてから考えて……それでもダメだったら、それでいいから」
「ああ。落ち着いたら、また考えてみる。……アイツのことも、オリジンの封印のことも」

父親と認められないのは悲しいことだ。だが正直レイラ自身もクラトスへ複雑な気持ちを抱いている。認めろと強要するのはとてもできないことだ。

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