雪見

一晩中、リフィルが応急処置を施したが、エクスフィアを使用していないアルテスタに対して、治癒術は効果が薄い。治療には、専門の医者に頼むしかない。
そこで、しいなからフラノールの医者を呼ぶことを提案される。かつてのヴォルトとの契約で重傷だったミズホの頭領の治療もこなしてくれたようで、腕は確かだろう。

フラノールまで着き、医者の元へ急ぐ。病院に並んでいる人たちは急患と聞いて順番を譲ってくれた。
が、当の医者はかなり悪どい人柄で、金を吹っ掛けるだけであればまだしも、ボディガードまで要求してきた。
医者を連れて行くために誰かのレアバードを借りねばならず、ロイド、それにレイラとコレットとゼロスがフラノールに残ることとなった。
コレットと共に雪ウサギを作り送るなど、無事を祈りながら時間を過ごしていた。

「アルテスタさん、大丈夫かな……」
「しいなのお墨付きの医者だし、お守りも送ったし、信じて待つしかないね」

何もできず待つ時間は本当に焦れる。

「ずっと部屋の中で待つのも滅入るし、ちょっと散歩でも……あ」
「どしたの?」
「雪……」

窓に目を向けると、雪が降っている。

「綺麗……」
「ねえ、外に出て景色を見に行かない? きっと、すごく綺麗だと思う」
「そだね。ロイドも誘おうよ」

コレットの提案に、レイラは少し考える。雪景色はさぞロマンチックな光景だろう。3人で行くのも別にいいが――

「それなら、ロイドと2人で行ってきたら?」
「えっ……」

にこり、とちょっと悪い笑みを浮かべ提案するとコレットが恥ずかしげに頬を染める。2人きりで雪景色を、となるとまるでデートだ。

「もう、レイラったら!」
「のぞき見とかも絶対しないし、2人でゆっくりしておいで」

滅多にない機会だ。たまには好きな人と心ゆくまで過ごすのもいいだろう。

「えっと……じゃあお言葉に甘えまして……」

気恥ずかしそうにしながらも、ロイドを誘うためコレットは部屋を出た。
少し時間を置いてから、外を歩く2人の姿が見えたので無事お誘いできたようだ。

「さて、と……」

レイラも外出する。勿論先程の約束を破って2人を追いかける――なんてことはしない。景色は見れなくても雪の中散歩するのも風情がある。
が、いざ1人で歩くと微妙に虚しい。景色は綺麗でもそれを共有する人はおらず、ただただ寒い。

「失敗した……と言っても誘う人なんて……」

同様に町に残ったゼロスの顔が思い浮かぶ。がすぐに頭を振って消す。

「私が誘うって変だし、理由もないし……。好きな相手でもないのに2人で出歩くなんて……」

そこではた、と足と思考を止めた。前に特に理由もなく2人で町を歩いたことがあったのに、何故今更躊躇してしまうのだ。
あの時と今の違いといえば……

「……雪のせい。気のせい。うん」

とりあえず無理やり自分を納得させて、歩きを再開する。
が、少し歩いてまた止めてしまった。

「……ゼロス?」

噂をすれば、というやつか。当のゼロスが町を歩いていた。
別段それだけならおかしいことはないが……

「路地裏で何を……」

町を歩いている女の子に目もくれず、路地裏に入って行った。
何かがおかしい。何か嫌な予感がして、ゼロスの後を追っていった。

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