葛藤

結局、どうすればいいか分からないまま朝を迎えてしまった。
朝になり、医者についていたメンバーが戻ってきた。
アルテスタは持ち直したとの報告を受け、ほっと胸を撫で下ろす。
そしてそれを聞いたロイドは、ある提案を出す。

「よし……俺も考えたことがあるんだ。このままずるずるクルシスの出方を待ってても世界は変わらないだろ? だから、今度はこっちから仕掛けよう」
「はは〜ん! やる気になったか! クルシスに殴り込みだな」
「ああ。目的は2つ。千年王国設立の阻止と……オリジンの解放だ」
「でもオリジンを解放すれば、クラトスの命は……」

目的は明確だ。でも、最大の懸念が解決できない。

「……まだ、よく分からない。でも……まだ死ぬと決まった訳じゃないし、あいつが俺たちの味方をするかも分からない。分からないことを悩んでる暇はないさ」
「うん……。正直、私もあの人のことは分からないし……」

命を捨てるようなことはできればさせたくない。だが、今はどうしようもない。

「エターナルソードはどうするの? 仮に、オリジンの封印を解いたところで、ロイドでは装備できないのでしょう? 私もジーニアスも剣を扱えるのかどうか……」

ここに、エターナルソードを扱える人はいない。その問題もまだ残っている。

「それなら心配には及ばねぇ」
「どういうことだ?」
「俺さまがどうして魔法剣を使えると思う? テセアラの新技術で魔導注入を受けたからよ。俺さまは人間だけど、エルフの血も入ってるって訳だ。どうだ? これなら何とかなりそうだろ?」

レイラは首を傾げる。ゼロスにエターナルソードを扱う気があるのだろうか。

「どうだ? これなら何とかなりそうだろ?」

何だろう、何かが引っかかる。アイオニトス、昨日ゼロスが呟いていた単語。あれは魔導注入に使う鉱石。何かが繋がりそうなのに、繋がらない。

「それなら……これが最後の決戦になるわね」
「分かりました。やりましょう」
「……世界の統合のために」
「……そうだね」
「私もがんばるね」

皆が各々決意を口にし気を引き締める中、ロイドはコレットと向き合う。

「……コレットは残れ」
「……どして?」
「お前はマーテルの器として狙われてるんだぞ。ミズホかレネゲードに頼んで匿ってもらうんだ」

コレットは俯いてしまう。内心では、付いていきたいだろう。

「……ロイドがそう言うなら……」

同意しようとするが、顔を上げてはっきり反対する。

「……ううん。やっぱり、ついてく!」
「でも……」

正直、レイラも反対したい。今度こそ、ゼロスは裏切る。コレットが付いていけばただでは済まない。

「ははーん。お前、ミトスからコレットちゃんを守り抜く自信がねーんだな。可哀想な奴」
「な、何だと」
「大丈夫よ、コレットちゃん。このゼロス様が必ず守ってあげるからよ」
「ゼロス!」
「連れてってやりな。どこにいたってコレットは狙われるんだ。そんなこと分かってんだろーが。男なら、ビシッと決めな」

よくもぬけぬけと言える。そのゼロスがこれからコレットを危機に陥れる原因になるのに。
だが……

(そういう意味では、私も同罪か)

今ここで、ゼロスは裏切ってると声を上げればいい。それで、コレットは安全だ。
なのに、ここに来て決心がつかない。懐の短剣が、言ってもゼロスから恨まれたりするようなことはないと言ってるのに。
ロイドやコレットも守りたい。ゼロスも救いたい。少なくとも、今ここで言えばコレットは守れるがゼロスが報われるとは思えない。
自分がどうするべきか、全く見えない。

「はっ、珍しくあんたと意見が一致したねぇ。ロイド、今回は悪いけど。ゼロスの言葉に同調するよ」
「……分かったよ。コレットを連れて行く。それでいいな」
「ありがと、ロイド。それにみんな」

コレットを連れて行くことで方針はまとまった。ロイド以外の皆はコレットを連れて行くことに賛同している。この場で反対の意を上げても、仕方ないだろう。

町を出る間際、ロイドへ声をかける。

「……ロイド、先に謝っておく。ごめんね」
「どうしたんだよ。いきなり」

ロイドは困惑してる。当然だろう。

「……私、今すごくとんでもないことをしてる。……ちゃんと話せばいいのに……迷ってる」
「また隠し事か? 今度は何だよ?」
「……ごめん、言えない……ううん、言いたくない。そのせいで、これから取り返しの付かないことが起こるかもしれない」

分かってるのに、言いたくない。なんて酷い我が儘なのだろう。

「言いたくないなら、無理に言うことはないよ。よっぽど大変なことなんだろ?」
「……本当に、ごめんね。私、ロイドの優しさに甘えちゃってる」
「いいって。……本当は話してほしいんだけどな」
「うん……」

この期に及んで何事かを隠されて、いい気はしないだろう。それなのに、待ってくれている。

「これだけ、約束して。何があっても、仲間を信じてほしい」
「言われなくても。みんなのことは信じてるよ」
「……ゼロスも?」
「当たり前だろ? ちゃんと信じてるから」
「……ん。それなら、私も何とかする」

本当に真っ直ぐ、迷わず言い切ったロイドが頼もしい。
なら、自分のやることも決まった。ちゃんと、咎めを背負おう。

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