裏切り

救いの塔の出入り口は天使が警戒網を張り巡らせていて、飛び込めば一網打尽にされてしまうだろう。
居合わせたユアンの手引きで、裏の秘密通路から進入することができた。

祭壇まで来た所で、ゼロスが前に出る。

「……ここは、俺に任せとけ」
「任せとけって、どうするんだよ」
「こんなこともあろうかと、前にここへ来た時にちょっとした細工をしておいたんだ」

その細工とやらは、確実にこちらの利になるものではない。
祭壇まで先に出たゼロスは、コレットを手招きする。

「コレット、ちょっとこっちに来て」
「え? うん……」

付いていこうとするコレットを、咄嗟に腕を掴んで引き止めてしまった。

「レイラ?」
「……ごめん、何でもない……」

流石に、罠と分かりきっているものをそのまま見過ごすのは抵抗がある。訝しげな皆の視線を浴びていたたまれなくなって、手を放してしまったが。
ここまで来たら、もう今更何を言おうと無駄だ。成り行きを見届けるしか無い。
コレットはゼロスに誘導されて祭壇まで出てくる。
そして、油断しきっていたコレットを、天使が取り囲んだ。
皆が驚く中、プロネーマが姿を現す。

「ご苦労じゃったな、神子ゼロスよ。さあ、コレットをこちらに……」
「はいよ」

コレットはプロネーマのいる転移装置の上まで送り込まれる。

「ゼロス!?」
「あんた、何するんだよ!」
「うるせーなー。寄らば大樹の陰って知らねーのか? お前らのしてることは無駄なんだよ。いいじゃねぇか。コレットちゃんだって生贄になりたがってただろ」
「ゼロス! 裏切るのか!」

いつものふざけた笑いはなりを潜め、冷たい表情と物言い。冗談などは一切なく、正真正銘の裏切り。

「うるせーな。俺は強い者の味方なんだぜ」
「裏切るとは笑止。ゼロスは最初から、わらわ達の密偵としてお前達の仲間になったのじゃ。そこなレイラもとうに知っておることよ」

プロネーマの嘲笑に、ロイドたちは動揺を顕にする。

「本当なのか?」
「嘘でしょう? 嘘だよね? そうだよね?」

信じられないのも無理はない。今の今まで、そんな素振り見せなかったのだから。

「……本当だよ。最初から……ゼロスは敵だった」
「レイラ、知ってたなら何で……」
「……ごめん。本当にごめん……。こうなるって分かってたのに……言えなかった……」
「ホホホ。つくづく愚かな娘よ」

責任の一端はレイラにもある。
でも、ゼロスのしていたことは、レイラの知っている範囲を超えていた。

「俺さまは強い者の味方だ。レネゲードとクルシスとお前ら、秤に掛けさせてもらったぜ」

レネゲードにも通じていたのは知らなかった。

「レネゲードにまで情報を流してたのか! あんたって奴は……! いい加減だけど、いい所もあるって思ってたのに……」
「お褒めの言葉、あ〜り〜が〜と〜」

しいなが詰め寄っても、それを茶化す。昔馴染みなのだ、ショックも一際大きいだろう。

「結局、マナの神子から解放してくれるってミトス様が約束してくれたんで、こっちにつくことにしたわ」
「神子がそんなにも嫌か? 仲間を売る程に」
「ああ嫌だね。その肩書きのおかげで、碌な人生じゃなかったんだ。たまんねーよ、ホント。セレスに神子を譲れて清々だぜ」

セレスの顔を思い浮かべる。素直になれないながらもゼロスを案じていたあの少女が、神子の肩書きなんてもの、望むのだろうか。

「……嘘だ! 俺はお前を信じるからな!」
「ばっかじゃね〜の。プロネーマ様、さあ、早くコレットを」
「後は任せたぞ」

ゼロスにこの場を預けて、プロネーマと天使達はコレットを転移させる。

「ロイド……ロイド! ロイドーーーー!」

コレットの叫びも虚しく、連れて行かれてしまった。行き先は大いなる実りの間だろう。

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