負った責任
「結局……こうなっちまったなぁ」
「どうしてだ! 仲間だったじゃないか!」
「仲間……ねぇ。この期に及んで、まだ信じてるってか?」
「それは……」
この場で、この状況でまだ信じられるわけがない。
「……信じて。私が言えた口じゃないけど」
剣を抜き、前へ出る。ゼロスと相対する形になる。
「レイラ……?」
「みんな、先に行って。今ならまだ、間に合うかもしれない」
「あんた、まさか!」
「急いで! 私がゼロスを止めてるうちに、早くコレットを!」
転移装置を指し示す。まだ作動している。レイラが抑えれば、今すぐに皆を送り出せる筈。
「おっと、やる気か?」
「こうなった責任は、私にもあるから。だから、この場は私が何とかする」
「へえ、レイラちゃんに俺さまを止められるってか?」
侮ったように笑うゼロス。確かに、腕力などで圧倒的に劣る以上、普通なら止めるのは難しい。
普通なら、だ。
「……止められる」
羽を出し、ゼロスが反応する前に羽交い締めにする。
振りほどこうとゼロスが身動ぐが、びくともしない。
「……チッ」
「忘れてた? 私も天使だって」
天使化して腕力を大幅に強化すれば、こうやってレイラでもゼロスを抑えられる。
「……行きましょう、ロイド」
「でも、レイラが!」
「こうしてる間にもコレットはマーテルの器になる準備が進められている。……もう、一刻も無駄にできないのよ」
「……くそっ」
皆が転移装置に向かって走り出す。
「おっと、させねぇぜ。クルシスの輝石ならこっちもあるんだ」
ゼロスが光を纏う。レイラは内心焦る。ゼロスにも天使化されたら抑えきれなくなってしまう。
「みんな、急いで!」
「後少しよ!」
他の皆は無事転移装置に乗った。ゼロスは金色の羽を生やし、天使化が完了した。
おかげで、さっきまで身動きの取れなかったゼロスは容易く体を捻る。
「うぁ……!」
そのまま、振りほどかれてしまう。ロイドたちは転移を開始してる。
ゼロスが飛びかかろうとする。このままでは転移を妨害されてしまう。
咄嗟に、剣を持った腕を振るった。
ゼロスが転移装置の目と鼻の先まで飛び出しあと少しというところで、ロイドたちは転移しこの場から姿を消した。これで、皆は地下へ下りていくだけ。
「ってぇ……後ろから斬りつけるとか、せこいんじゃねーか?」
「何を今更」
咄嗟に、斬りつけて動きを鈍らせて間に合わせた。本当に、ギリギリだった。
後は、存分に戦える。
「この落とし前……私がつけてみせる」
「そうこなくっちゃなぁ?」
真っ直ぐにゼロスを見据えて、剣を向けた。ゼロスも応戦すべく剣を向けてくる。
即座に、走り出し近づくレイラにゼロスは迎え撃つ。
「魔神剣・双牙!」
「甘い!」
お互い手の内はよく知る相手、それくらいは読める。かわして距離を詰めていく。
「やっ! 虎牙連斬!」
「おっと」
飛び上がってから斬りつけてやる。向こうもこっちの手を読み、防がれる。
その隙をつかれ、ゼロスが反撃に出る。
「風雷神剣!」
「あうっ!」
突きと同時の落雷で動きを止められる。
ゼロスも技の反動が強く、すぐには攻撃に出られない。その一瞬の隙を見計らい、距離を取る。
そのまま癒やしの術の詠唱に入る。
「おっと、距離なんか取っちまっていいのか?」
が、ゼロスもまた詠唱を始める。
まずい、と咄嗟に詠唱を中断し止めに走るが、間に合わない。
「輝く御名の下、地を這う穢れし魂に、裁きの光を雨と降らせん。安息に眠れ、罪深き者よ……」
距離を取って体制を立て直そうとしたのが仇になった。
「ジャッジメント!」
降り注ぐ光の柱を浴びせられてしまう。天使術の強力さはよく知っている。それをみすみす食らうのはこちらの判断ミス。
レイラは踞ってしまう。立ち上がるのも困難だ。
「何だ、案外あっけねぇな」
ゼロスが動けないレイラにとどめを刺そうと近寄ってくる。
その剣を――懐から短剣を取り出し払う。
「っと、それもあったな……」
「返したのはあなたでしょう?」
傷だらけの体を叱責して、立ち上がる。
「おいおい、無茶しやがって」
「無茶で結構」
痛みを遮断する。あまりやりたくないことだが、なりふり構ってられない。
呆れたゼロスの油断を突く。
「閃空衝裂破!」
満身創痍な中無理やり立ち上がっていると思っていたゼロスは、まさか技が飛んでくるとは思わなかっただろう。
回転斬りを放ち、ゼロスは防ぐ隙もなく食らってしまう。
吹き飛んだゼロスは、そのまま倒れ込んだ。
そこに、馬乗りになることで起き上がれないようにする。意外なことに、全くの無抵抗だ。
「ゼロス……」
短剣を握りしめ、ゼロスの心臓目がけて――振り下ろした。