仲間の救助
「さて、俺さまたちもあいつらを追いかけねぇとな」
ゼロスが転移装置を操作し始める。ゼロスは、クルシスを裏切りこちらに戻ってくることを決めてくれた。
ふと、今なら聞けるのではないかと、疑問をぶつける。
「ねえ、ゼロス……フラノールで、お父様は何してたの?」
ゼロスは固まってしまった。
「いや〜レイラちゃんよ、何で天使様がいたと思ったの?」
「あの後、あそこで落とし物を拾って……それがお父様のものだったから」
「……なるほどな」
ペンダントを取り出す。流石に中身までは見せないが。
ゼロスは溜め息を吐く。そして、洗いざらい話してくれた。
「あいつはな……エターナルソードを人間でも扱えるようにする方法を探してたんだ」
「そんなことができ……ううん、アイオニトスのこと?」
「ああ。そいつをドワーフの技術で精製して、契約の指輪を作る。そうすれば、人間でも扱えるらしいぜ」
確かに、それなら可能になるだろう。
「それを、お父様から聞いてたの?」
「ああ。他の道具は揃ったが、肝心のアイオニトスが手に入らない……。しかも、今のあいつは監視がついて動きにくい状況だ。だから……俺さまに、頼んできたってわけだ」
クルシスに保管されているアイオニトスの入手を。ミトスから信用を得ていて、比較的動きやすい立場のゼロスに。
「ま、断ったけどな」
「……そっか」
そのことで責めたりしても仕方ない。もし協力していれば、そのために裏切った「ふり」をしていた状況もあっただろうが、過ぎた結果は変えられない。
「あいつのことはこれくらいだな。今はミトスの注意もコレットちゃんの方に向いてる……多分、今ならあいつも動けるだろ」
「…………」
「それより今は、あいつらだ。ここから大いなる実りの間まで、いくつも罠が張られてる。助けに行かねぇとやべえぞ」
「……うん。早く、みんなを助けよう」
聞くところ、大量の天使が待機しているとか、大樹暴走の名残の根に阻まれているとか、扉を開けると部屋が崩壊したり天井が落ちてきたりするとか、障壁に囲まれるとか。
聞くだけで容赦のない罠の数々だ。きっと、みんなひとりひとりがロイドを先に行かせて取り残されるだろう。
「急ごう!」
転移装置から、地下へ転移する。
*
リーガルが、大量の天使を相手にしていた。天使にロイドたちを追わせないためか通路は塞がれて、天使に囲まれて退路もない孤軍奮闘。
「よし、あいつらの隙を作れるか。付け焼き刃の俺さまより、レイラのが天使術の扱いは慣れてるだろ」
「うん。ゼロスこそ、気をつけて」
2人は、隠し通路から皆を追いかけていた。どうにかここに連れていけば安全は確保できる。
レイラが詠唱を始める。それとタイミングを合わせて、ゼロスが飛び出す。
「輝く御名の下――」
ゼロスが天使に気付かれるかの瀬戸際とほぼ同時に、詠唱が完成する。
「ジャッジメント!」
降り注ぐ光の柱で、天使たちの包囲網に穴が開く。
「リーガル! こっちだ!」
「神子!?」
当のリーガルも当然驚く。
「話は後だ、とにかく逃げるぞ!」
レイラが開けた穴からゼロスがリーガルに走るよう促す。
罠かと警戒は解かれることはないが、このままここにいてもリーガルが危険なだけ。言われた通り、ゼロスを追い走り出す。
無事、2人は場から逃げおせた。天使にも気付かれることなく。
「戻ったぜ、レイラ」
「よかった……」
「レイラ? これは一体」
この場にゼロスとレイラが揃っていることに、リーガルは戸惑うばかり。
それも当然だろう。別れた時は完全に敵対していたのが、一緒にいるのだから。
「えっと……説得したというか、和解……できたというか……」
レイラは説明に困る。流石に起きたことをそのまま話してしまうのは恥ずかしい。
「と、とりあえず急ぎましょうよ! 1人1人助ける度に説明したらキリがないので、まとめて話します!」
困りに困った末、説明を放棄して先を急ぐことを提案した。
*
根に引きずり込まれ、奈落へ落ちたしいな。ロイドたちと初めて出会った時の落とし穴では幸い無事でいられたが、あの時の比ではない深さだ。底まで辿り着けばただでは済まないだろう。
不意に、水色と金色の光が視界の端に映った。どこかで見覚えがある光。
「しいなー!」
彼らは落下していくしいなを追って羽を広げ降りていく。
「え……レイラ? それにゼロス……」
それぞれしいなの腕を掴み、落下を止める。
「ま、間に合った……」
「おいおいしいな、ボロボロじゃねぇか」
こんなに飛ばしたのはフウジ山岳以来だ。レイラは疲労を感じる。
「どうしてここに」
「おっと、積もる話は後だ。とにかく引き上げるぞ」
唖然としている間に上まで連れて行かれ、あっという間に元の場所へ戻ってきた。
そのまま、急いで次の仲間の元へと向かう。