また、共に

レイラが今まで足を踏み入れたことのない区画。
普段なら天使が常駐しているだろうが、今はマーテル復活に人員が割かれているのか、全く天使を見ない。

「多分、あるとしたらこのあたりなんだけど……」
「誰もいねぇな」

耳を澄ませても、誰かがいるような気配はない。

「もう行ったのかな……」
「いや、プレセアちゃんやがきんちょと別れてそんなに経ってない筈だ。行き違ってるってことはないと思うが……」
「なら、もう少し探してみるしかないか……」

更に奥へと足を踏み入れて行く。
地下は大樹暴走の名残の根があちこちに張っていたが、このあたりは厳重に守られていたのか、根の侵食はない。

奥から足音が聞こえてくる。天使のものなら足音ではなく羽音の筈。
ならば、これは――

「……お父様!」

奥から歩いてきたのは、やはりクラトス。

「レイラ? 何故ここに……」
「あー、フラノールでの話、教えちまってな」

ばつが悪そうに告げるゼロスをクラトスが睨みつける。

「お父様、アイオニトスは……」
「ここにある」

見せられたのは、不思議な輝きを放つ石。

「よかった……」

無事、目的は果たせていたようだ。

「ありがとうございます。先生たちを助けてくれて……その上、契約の指輪のことまで……」

ここでクラトスはみんなのために手を尽くしてくれた。けど、気になることがある。

「……ずっと、このために動いていたんですか?」
「ああ」
「自分が死ぬかもしれないのに、どうして……」

そう、エターナルソードを誰かが使うには、クラトスがオリジンの封印を解かなければならない。わざわざ、自分の命を捨てに行くような真似をしている。

「私は、自らの過ちを償わなくてはならない。そのためには……」
「……そのために、死にに行こうとする人を黙って見過ごしたくありません。ロイドだって、きっと同じ……」

たとえ父親だと認められないとしても、犠牲が出ることを厭う気持ちは変わらない。
それなのに、犠牲になりに行こうとするのか。

「……お前には、苦しい想いを強いてしまっているな」
「私は、いいんです。でも……」

ペンダントを取り出し見せる。クラトスに動揺が見えた。

「それは……」
「フラノールで拾いました」

在りし日の家族の思い出を、この人はずっと持っていた。その意味は。

「ミトスのことも、お母さんのことも、後悔しているのは分かりました。でも……全部、一緒にしてしまうのは違います……」

過去の過ちも、過去の負い目も、一緒くたに清算しようとしている。それは、あまりにも歪だ。
共にミトスを止めるべきなのに、過去の負い目から、こうしてレイラやロイドを避け裏で動くだけに留めている。
そうやって託されたエターナルソードを、果たしてロイドが受け取ってくれるものだろうか。

「レイラ……。それでも私は、お前たちと一緒に戦うわけには……」
「みんなを助けてくれたのに?」

もう、皆クラトスのことを敵だとは思っていない筈だ。
頑なになってるのは、クラトス自身だけ。

「……結局、全部てめぇの都合だろうが」

それまで成り行きを見守っていたゼロスが、口を挟む。

「散々てめぇの都合でname#やロイドを振り回して、押し付けて。そのためにこいつらが割食ってきて」
「ゼロス、自分勝手だなんて言わないで!」
「過ちがどうの言って、ロイドを巻き込んでレイラを板挟みにしておいて、どこが自分勝手じゃねぇんだ?」
「私のことはいいんだって」
「良くねぇだろ。そうやって我慢して、見てて痛々しいんだ」

ゼロスとああ言ってはこう、の応酬にになってしまう。

「ゼロスがそれを言うの!? 人を散々振り回して、家族に対して見てて痛々しい態度なの、あなただってそうでしょう!?」
「俺のことは今はいい。とにかく、自分のことは自分でケリを付けろ。こいつらを……自分の子供を、勝手に巻き込むんじゃねぇ」

自分のことを盛大に棚に上げているのはともかく、レイラやロイドのために本気で怒っているのは分かる。
クラトスはその言葉を受けて、考え込む。
レイラは、改めて背筋を伸ばしクラトスと向き合う。

「お父様。ゼロスのことはともかく……本当に、一緒に行けないのですか……?」

こんな所で、意地を張ってしまっても仕方ないのだ。レイラだって、そう思っているからここに来ている。

「……私の過ちを、お前に託さず、私の手で清算しなくてはならない、か……。分かった。私も行こう」
「お父様……!」
「だが、今共に行った所で、その後またオリジンの封印のことで苦しむことになる。それでいいのか?」
「……はい。構いません」
「……そうか」

辛い思いをすることは承知の上だ。それでも、過ちは自らの手で清算して、その上でまた別の過ちと決着を付ける。それが、レイラにも納得できる形になるのだ。

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