評決の島
休息と、別の用事を片付けるために、ミズホの里を訪れた。
くちなわのことは既に里に話が通っているようだ。しいなとの決闘。くちなわはその勝敗に関わらず、里を出る。
おろちから理由を訊ねられる。思いもよらない事態だ、当然のことだろう。
「何があったんだ? くちなわはタイガ様のご命令でメルトキオの精霊研究所との連絡役という任務を引き受けていた筈だ。それが何故お前と決闘などしなければならない? タイガ様もこれは私闘だとお怒りだぞ」
「……詳しくは副頭領に報告するよ」
くちなわがしいなを恨んでいることも、そのために里を裏切ったことも、彼らは未だ耳に入れていない。
それらは全てしいなの口から話すことだ。部外者である皆に口出しする権利はない。
「しいな、これ……」
準備をしているしいなにレイラはあるものを渡そうと話しかける。
「これは?」
「お守り。しいなもくちなわも、納得できる結果になるようにって……」
「……ありがとう。でも気持ちだけ貰っとくよ。これはあたしの問題だから」
「そうだね……」
「しっかりしな。当人のあたしよりあんたの方がナーバスになってるよ。あたしのことは大丈夫だからさ」
救いの塔を出てから、レイラの顔色は芳しくない。しいなはそれを指摘する。
「……しいなも納得した上で受けた。私から心配するようなことは無いんだね」
「そうさ。大丈夫だから、そんなに心配せず、待っといてくれよ」
余計な真似だった。立会人としてロイドもいるからには、ちゃんとお互い後悔しない結果で戻ってきてくれる筈だ。
評決の島へと向かうしいなたちを見送る。
「……くちなわも、ちゃんと納得できたらいいな」
くちなわの憎しみは根深い。決闘ひとつで晴れるようなものではないだろう。でも、しいなの強さを、強くなった事実を、理解してくれれば、いつかは。
しいなを待つ傍ら、レイラの耳に奇妙な呻き声が届いた。
――一枚……二枚……三枚……足りない……
「……?」
聞き覚えのない、老人のものと思わしき声。
心が参りすぎて、空耳まで聞こえるようになってしまったのだろうか。
程なくして、しいなも戻ってきた。その手には、返してもらった鈴もある。
その様子を見れば、決着がどうなったのかはおよそ察せられる。
「おかえり。大丈夫そう……だね」
「ああ。見ての通りサ」
悔やんだりしている様子はない。ただ、くちなわの今後を案じている。
ちゃんと、後悔しない結果の決着が付けられたようだ。