迷い

ヘイムダールの方へはクラトスが予め話を通していたようで、族長に出迎えられた。

「よく来たな。客人は既にオリジンの眠るトレントの森へ入って行った」
「……分かりました」

ここから先はジーニアスとリフィルは入れない。2人は村を離れようとする。

「では、私達はここで……」
「待ってくれ、先生、ジーニアス」

ロイドがそれを引き止める。

「族長。お願いだ! この2人を村へ入れてくれ! 今だけでいいんだ。2人は俺の大切な仲間だから、クラトスと決着をつけるところを2人にも見届けてほしいんだよ!」
「何を言う。ハーフエルフが村に入るなど以ての外だ」

エルフは変わらず、懇願を聞き入れることはない。
その様子に、ロイドの堪忍袋の緒が切れる。

「……あんたたちのその態度がクルシスを生んだんじゃないのか!」
「何!」

こうして、ハーフエルフをただ排斥していくエルフ。ミトスは、そのせいで生まれ故郷に帰ることは叶わず、差別に晒され、クルシスを作り出した。
クルシスを作り出した原因のひとつはエルフにもある。なのに、肝心のエルフはミトスのことを禁忌とし、無関係であろうとする。

「待て! 2人共。我々とハーフエルフとの溝は暗く深い。しかしお前の言葉にも一理ある。よって只今からオリジン解放までの間だけ、2人の入村を認めよう」
「族長!」
「ただし、2人はいかなる施設も使うことができない。良いな」
「……結構です」
「……やな感じ」

条件付きながら、村に入ることは許された。

クラトスとの戦いは、大事な戦いになる。世界の命運を決める戦い、親と子の戦い。
だから、一晩ヘイムダールに泊まり、英気を養うことにした。

レイラは、ずっと考えていた。
自分は何をしているのだろう。父親と世界を懸けた戦いなのに、戦えないばかりに、ロイドに全てを押し付けて、何もしないでいる。
それが、酷く焦れったい。

「レイラ、本当にいいのか?」
「……嫌って言えば、止めるの?」
「それは……」
「そういうわけにはいかないでしょ? ……辛い思いをするのは、もう分かってるから」
「けど、平気ってわけじゃないんだろ?」

覚悟していることと、平気なことは別だ。

「うん……。でも、平気でいちゃ駄目なんだと思う。親と子が戦うのに、平気でいる方がどうかしてる。だから、いいんだ」
「……そっか。レイラなりに、納得してるんだな」

辛い思いも全て含めて、納得している。だから、ロイドは心配しなくていい。

「……ロイド、これを」

自分の剣を、ロイドに渡す。

「私は戦えないけど、本当は私の手でも決着をつけてあげたい……。だから、ロイドに託す」

戦えない代わりに、想いを託す。剣を預けるのは、その証のようなものだ。
勝手かもしれないが、こうするくらいでしかレイラは自分が戦わないことを納得させる方法が無い。

「分かった。レイラの分も、戦うよ」

ロイドにも、それが伝わっただろう。受け取ってくれた。
預けた以上、レイラは決着を見届けるのにまた別の意味が生まれる。自分の想いがどういう結果になるのか、見届けなければならない。
気持ちの問題でしかないけど、「押し付ける」と考えるのに比べたら、前を向けられる。
これで、心残りはない。

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