一騎討ち
一夜明けて、ロイドも覚悟を決めたようで随分落ち着いていた。
トレントの森、その奥に隠されたオリジンの封印を目指して歩みを進める。その足取りに、迷いはない。
勿論、レイラも。昨日までの不安気な様子は鳴りを潜め、落ち着いている。
目的の場所で、クラトスは待ち受けていた。
「……来たか」
救いの塔からここまで、クラトスの様子は変わらない。
「どうしても戦うのか」
「……今更、何を言う。中途半端な覚悟では……死ぬぞ。オリジンの契約が欲しくば、私を倒すがいい」
死ぬつもりだ。戦いで手を抜くことは決してないだろう。けれど、その上で、ここを死に場所と定めている。
「それが……あんたの生き方なのか」
ロイドもそれを察しただろう。だけどクラトスが決めたことならば、口出しはしない。
「みんな。ここは俺に任せてくれ」
ロイドの提案に、皆頷く。この場をロイドに任せて大丈夫だと。皆、ロイドを信じている。
「……1人で大丈夫なのか?」
それを知らないのはクラトスただひとり。
「ロイドは、あなたが思うよりずっと、ずっと強くなりました。私たちはその強さを信じてるから……ロイドに預けるんです」
要らぬ心配であることを伝える。
ロイドの剣に視線を移す。片方はレイラの剣。レイラが剣を取らない分も、ロイドが担ってくれる。
その剣を、ロイドが抜く。
「行くぞ!」
親と子の戦いが、始まった。
レイラの剣は、ロイドの物に比べて軽い。その軽さを利用して素早い太刀筋を繰り出すのが、彼女の剣だ。
使い勝手の違う剣を持つからには、いつもとは違う戦い方をしなくてはならない。ロイドはレイラの剣術を思い出しながら、距離を詰めていく。
「!」
クラトスの剣がどう出てくるのか、瞬時に分かり剣で受け止める。
以前、レイラと戦った時に感じた既視感。その正体が今ようやく分かった。
速さや重さ、癖は違っている。だが、2人の太刀筋は、よく似ていた。
思い浮かべていたレイラの剣と似た太刀筋で、クラトスが剣を振るう。それを躱していく。
似ているなら、隙が出来る瞬間も同じ筈。
「今だ!」
そこを突く。思った通り、防がれることなく一撃入れられた。
が、クラトスがそこで押されたままでいる訳がなく。すぐに立て直しのため距離を取り、魔術を放つ。
「サンダーブレード!」
「ぐあっ」
ロイドが動けない間に、クラトスが再び斬りかかってくる。
すんでのところで、それを防いだ。ロイドの方も態勢を立て直しながら、再び隙を伺う。クラトスの剣を防ぎ躱していくのは、今なら容易だ。
レイラは、一切目を逸らすことなく、まばたきのひとつもせず、戦いを見守っていた。
ロイドが普段以上に隙を突き確実に一撃一撃を入れていくのは、片手に持つ剣の影響だろうか。
相手の隙を伺う戦い方はレイラの癖だ。たった一度だけ、レイラがクラトスから唯一教わった戦いのコツ。
レイラ自身は後ろに下がり見ているだけなのに、一緒に戦っているような心地だ。
調子が掴めてきたのか、ロイドは確実にクラトスを追い詰め、形勢を有利にしていく。
クラトスの方も一方的にやられるばかりではなくロイドの調子を崩していく。
そうした戦いの決着も、とうとう決まる。
ロイドが片方の剣を振るう。クラトスはそれを剣で打ち払う。――そうして片方の手のレイラの剣に注意を逸らさせ、もう片方の自らの剣で、クラトスを斬りつける。
体力の限界だったのだろう。その一撃で、クラトスは膝をついた。
それを確認して、ロイドは剣を下ろす。
クラトスの方も立ち上がることはない。
ロイドが、勝利を収めたのだ。