贖い

「……強くなったな」
「……あんたのおかげだ」

ロイドの強さに、クラトスはどこか満足気だ。
出会った当初は、反発していた。けれど旅を通してロイドはクラトスに憧れて、それは敵になっても、父親だと分かっても変わらないままだった。
そうして、今、追い付いたのだ。

「止めを……刺さないのか?」

ここまで強くなったロイドに討たれるのなら本望だったろう。でもそれは、ロイド自身が許さない。

「俺は、俺たちを裏切った天使クラトスを倒した。そして、俺たちを助けてくれた古代大戦の勇者クラトスを許す。それだけだ」

最初から、殺すつもりなどなかった。クルシスの天使としてのクラトスと決着をつけるだけで。今まで何度も助けてくれたクラトスを、殺すつもりはなかった。

「フ……。……ようやく死に場所を得たと思ったのだが……やはりお前は、とことんまで甘いのだな」

クラトスは傷だらけの体を引きずり、オリジンの封印に向き合う。

「ま、待て! まさか、封印を解放する気か!?」
「……それが望みだろう」
「それじゃあ、あんたが……」

レイラは止めようとするロイドの前に出て、腕を伸ばし遮る。

「……信じて」

ここまで来たら、止めることはできない。なら、信じるしかない。彼らを。
クラトスは封印にマナを放射する。マナによってクラトスの周囲が薄らと光を帯びて、マナが感じ取れなくても、目で見えた。
光が消えて、マナの無くなったクラトスは糸が切れたように倒れる。

「クラトス!」

一番近くにいたレイラがそれを咄嗟に受け止めるのと同時に、ずっと様子を伺っていたのだろうユアンが駆けつけてくる。
ユアンはすぐに、クラトスの命が尽きるより先にマナを注ぐ。
ほんの一瞬の遅れで失敗する賭けだ。レイラはぎゅ、と手に力を込め祈るしかできない。
やがてマナが収まる。ユアンの身に異常はなく、クラトスも微かながら呼吸が続いている。

「……成功した……?」
「……ああ。私のマナを分け与えた。大丈夫。クラトスは……生きている」
「よかった……」

ロイドが駆け寄ってくる。

「とうさ……クラトス。本当に大丈夫か?」
「……また死に損なったな」

未だに死を望むクラトスに、とうとうロイドが激昂する。

「馬鹿野郎! 死ぬなんて、いつでもできる。でも死んじまったらそれで終わりだ」
「生きて地獄の責め苦でも味わえと?」
「誰がそんなこと言ったかよ! 死んだら何が出来る? 何も出来ないだろ! 死ぬことには何の意味もないんだぜ!」
「……そうだな。そんな当たり前のことを、息子に……教えられるとはな……」

生きてさえいれば、何だってできる。それを放棄してしまうのは、ただ逃げているだけ。
ロイドの言葉に納得し、クラトスは気を失う。
これで、死ぬことで罪を贖うことはもう止めてくれるだろう。

「ありがとう……お父様を助けてくれて」

ロイドに託してよかった。クラトスをこうして救えるのは、ロイドだからこそできたことだから。

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