選択の末路
ミトスは倒れて、後に残ったのはクルシスの輝石だけ。
そして、輝石を中心に、ミトスの像が浮かぶ。
「ミトスが!」
「アリシアと同じです! クルシスの輝石がある限り、ミトスは生き続けます」
『そして……いずれは輝石に支配される』
「ミトス……」
ミトスの瞳は、どこか空虚だった。先程までの狂気や執着は、どこにもない。
『もうお前達の正義ごっこに付き合うのはごめんだ。さっさと輝石を……壊せ。でないとデリス・カーラーンは離れていく』
「ミトス……お前……」
『……早くしろ! ボクも……ボクではなくなる』
無機生命体になる、ということの本当の意味をミトスは悟ったのだろう。
アリシアは言っていた、喋ることもできず、ぼんやりとした意識のまま未来永劫生き続ける、と。
そうなれば、もうミトスには理想も何もなくなってしまう。
「ロイド! ミトスを……助けて! ミトスのままで……逝かせてあげて!」
「……分かった」
ロイドはミトスと向き合い、ミトスもロイドを見やる。
『さよならだ、ボクの影。ボクが選ばなかった道の最果てに存在する者。ボクはボクの世界が欲しかった。だからボクは後悔しない。ボクは何度でもこの選択をする』
ロイドは、この世界に生きる全ての命のための世界を望んだ。ミトスは、自分のための世界を望んだ。
ミトスの選択は、過ちだったかもしれない。ミトスだって本心では気付いていた筈。
けど、それは紛れもないミトス自身が選んだ道。ミトスの意志。たとえやり直したとしても、曲げることはない。
『この選択をし続ける!』
ロイドが輝石を砕くと、ミトスの像も消える。
最期に自分の選んだ道を回顧し、それが自身の意志であることに確信を持ったミトス。その瞳は空虚なものではなく、確かに意志を宿していた。
輝石の欠片は光の粒のようになり、ロイドのエクスフィアへと吸い込まれるように消えていった。
そのエクスフィアを、ロイドは見つめる。
「……ここに……俺たちの世界にいてもよかったのに。……バカ野郎……」
お互いに、決して分かり合うことはなかった。道が交わることはなかった。
それでも、もしミトスが望めば、共に並んで生きていくこともできたかもしれないのに。
居場所はないと心を閉ざしてしまっていたけど、もしロイドたちに心を開いていれば、居場所を作れたのに。
かつての英雄、かつての友の、その死を悼む。