新たな目覚め

“彼女”はその様子をずっと見守っていた。
大いなる実りが大地に降り立ち、それを彼女が受け止める。
彼女は大いなる実りへ包まれ、再びひとつへ融合しようとする。
そこには、数多の少女達の魂がいた。少女達は彼女の中へ吸い込まれ、彼女はそれを受け入れる。
そうして、人形を器に“彼女”が目覚めた。

崩れた瓦礫の中に降り立った彼女はその中心、芽吹いた芽の元へ。
ほんの小さな芽だが、そこに付いた葉は瑞々しい。
そうしているうちに、目覚めさせた立役者が戻ってきた。それを出迎える。

「私はマーテル。そして大いなる実りそのもの。人々の希望が、そしてロイド、あなたの希望が、私を蘇らせた」
「あなたが、ミトスの姉さん……?」
「いいえ。ミトスの姉であるマーテルは、私の中のひとりに過ぎません。私はマナそのものであり、大樹そのもの。大いなる実りに吸い込まれた、たくさんの少女達の象徴。大樹と寄り添うために誕生した、新たな精霊。そして種子は今、私と共に新たな目覚めを迎える」

マーテルの言葉と共に、苗が急速に成長し、大樹の姿を取る。
見たことのないような巨大な樹。幹も枝も葉も綺麗に、まっすぐに伸び、包み込むように広がっている。
ロイドもコレットも、その姿に圧巻される。

「これが、大樹カーラーン……」
「すごい……とても大きくて、綺麗……」

世界を支えるのに相応しい、美しい大樹。

「これが大樹の未来の姿。でも今は、まだ小さな芽。このままではすぐに枯れてしまうでしょう」
「どうしたら、大樹を守れるんだ?」
「この大樹を慈しみ、愛すること。その約束が果たされる限り、私もこの樹を守りましょう」
「約束する。もしも、樹が枯れそうになっても、必ず俺が、俺たちが食い止める!」

折角蘇らせた大樹を、また枯らすわけにはいかない。必ずや、守らなくてはならない。

「ではロイド、代表として、あなたにお願いします。契約の証として、この大樹に新たな名前を」
「え……?」
「大樹カーラーンは、かつてエルフがこの大地にやって来た時、彼らを守るものとしてここに植えられた樹。新たに蘇ったこの樹は、エルフと、人と、その狭間の者、全ての命を守る存在。だからこそ、この樹には新しい名前が必要です」

この樹は、大樹カーラーンとはまた別の役割を背負った樹。なら、同じ名であってはならない。

「ロイド、名前を決めてよ。私たち、みんなの樹に」

この樹を目覚めさせたロイドには、その権利がある。

「この樹は、世界を繋ぐ楔なんだよな」

ロイドの脳裏に、ある名前が浮かぶ。この大樹の目覚めの影の立役者の名。

「よし、決めた! この樹の名前は――」

大樹を見上げ、その名を、付ける。

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