砂漠の夜

「本当に一夜のことみたいだね。まだ油断はできないけど」

ジーニアス特製のマーボカレーを食べながらも、レイラはコレットの様子に注意を払う。
その顔色は随分落ち着いていて、夜が明ける頃になれば何事も無かったように元気になるだろうということは見て取れた。

「コレット、辛い時は正直に言うんだよ。その為に私達がいるんだから」
「うん、ごめんね」
「…………」

釘をさしてもコレットはきっと隠すのだろうな、とレイラは思った。それがコレットという少女だから、責める気は毛頭ない。
ふとロイドが傍に来たことに気付く。何か用があるのだろうか。
それより、少し言いたいことがある。

「ね、ロイド」
「ん?」
「コレットって、辛い思いをしても絶対に弱音を吐いたりしないよね。少しは頼ってくれてもいいのに」
「確かに、さっきだって平気じゃないのに平気って言ってたもんな」

ロイドもレイラも考えることは同じだ。コレットに無理して欲しくない。そのために大切なことは。

「……コレットを危険から守るだけなら、私にも、クラトスさんにもできる。けれど、本当にコレットが辛い思いをして、その時にコレットの心を守るのは……私じゃ無理なんだ」
「どうしてだよ?」

コレットの心を守りたいけど、どうしても、レイラでは力不足だと実感した。それなのに本当に守れる人はどうにも鈍い。

「……ロイド」
「何だよ」

この先を言ってしまおうか迷うが、きっとそれを言うのは野暮だろう。

「……何でもない」
「……変なの」

ロイドが軽く笑う。冗談か何かと取ったのかもしれない。
今度はコレットの方にロイドは話しかける。

「そうだ。これ、遅くなったけど誕生日のプレゼント……」

ロイドが懐からペンダントを取り出し、コレットに渡すも――

「……壊れちゃってるね」
「いつ壊れたんだろう……ごめんな、作り直すよ」
「うん。ごめんね、何度も手間をかけさせちゃって」
「いいんだよ、そんなの。
それよりおまえ、全然食ってねーな。まだ具合悪いか?」

ロイドがコレットの皿が手付かずなことに気付く。

「ううん。もう平気。ただ何か食欲がわかなくて」
「食わねえと体がもたないぞ」
「……うん、そだね……けほっ、けほっ」

ロイドに言われコレットもマーボーカレーを口に入れるが、噎せてしまう。レイラはとっさにその背中をさすってやる。

「無理をさせないで。まだ本調子ではないんだし」
「コレットはロイドより全然繊細なんだから」
「ほっとけ!」

レイラの注意に乗ってジーニアスがからかえばロイドがムキになる。

「悪かったな、コレット」
「だいじょぶだよ〜。ホントにごめんね。……私、ちょっと散歩してくるね」
「俺も行こうか」
「ありがと。でも1人で平気だよ。じゃあ……」

そう言って少し離れた場所にあるオアシスまでコレットは歩いていった。

「やーい、ふられてやんのー」
「うるせぇ」

至っていつも通りなロイドとジーニアスを微笑ましく思うのであった。

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