忘れていたもの

夜も更け、皆眠りに就いた頃、レイラはそっと体を起こし、寝袋から抜け出す。

「どうした」

寝ずの番をしていたクラトスに声をかけられる。

「ちょっと、目が覚めて……少し、風に当たってきます」
「砂漠の夜は冷える。あまり感心できることではないな」

レイラの言葉にクラトスは渋い顔をする。

「本当に、少しだけですから」
「夜は魔物も活発になる。いくらお前でも1人では危険だ」
「そんなに離れませんから」

クラトスは頑なに、その場から離れることをよしとしなかった。

「ほんの少し、周りを散歩したらすぐ戻って眠ります。ちょっと、考え事もしたいですし……」

レイラがどうしても、と押せばクラトスもようやく折れてくれた。
クラトスの視線を背中に受けながらレイラはその場を離れるべく歩き出す。

近くにあるオアシスまで辿り着く。オアシスは夜空に浮かぶ月を映し出していた。

「…………」

そっと目を閉じ、魔術を使うように背中にマナを集中させる。
何か、言葉で表せない不思議な感覚が背中にあるのを感じた。
そして、目を開いて、水面に映された自らの姿を見て――愕然とした。
レイラの背には光り輝く翼が現れていた。
澄んだ水色の翼。色も形も違うが、それは明らかに今日コレットに生えたものと同じで。
コレットの羽を見て得た確信が事実に変わる。自分も、似たものを持っているという。
先ほどと同じ要領で背中のマナを意識すれば、翼は跡形もなく消える。周りを照らしていた光もなくなり、辺りはまた月明かりだけに。
レイラは膝をつき、項垂れた。

「私は……何?」

どうして翼があるのか。自分は天使なのか、人間なのか――何も分からなかった。ただただ未知への不安だけが湧き上がってくる。

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