ドジな暗殺者
「待て!」
翌日、コレットはすっかり回復し、次の封印の手がかりを探すためパルマコスタへと向かうことが決まった。
そのため、道中のオサ山道を越えようと麓まで来た時、何者かに呼び止められた。
声の主は見たことのない独特な服を着た若い女。軽やかにこちらの目の前に降り立つ。
「……何だ?」
「ロイドのお友だち?」
「さあ……?」
女はただならぬ雰囲気なのに、ロイドとコレットはいつも通りの様子である。
「……この中に、マナの神子はいるか?」
「あ、それ私です」
その問いにコレットが素直に手を挙げる。すると女は武器を構えた。
「覚悟!」
コレットに向かって一直線に走りよる。
その勢いにコレットが驚き、尻餅をついたその拍子に――
『……あ』
傍にあったレバーを入れてしまう。女の足元の地面が開き、彼女はまっ逆さま。
「ああ〜、ど、どうしよう、やっちゃった〜!」
「気にすることはないわ。ここで相手が落ちなければ、あなたが殺されていたのかもしれないのだから」
「だけど……」
コレットが心配そうに穴を覗き込む。
「まあ……ちょっと可哀想ではあったけど」
「死んじゃったりしてないかな」
「仮にあの人の体重が45kgとして、この穴が10mだとすると、重力加速度を9.8として計算しても……死ぬような衝撃じゃないよ」
ジーニアスの計算がいまいち理解できずコレットとロイドが首を傾げる。
「じゅーりょくかそくどぉ? よくわかんねえけど、生きてるんだな?」
「多分ね」
「……怪我の一つや二つはしてそうだけど」
「しかしまー、運の悪い奴だな。落とし穴の真上にいたなんてさ」
「落とし穴ではなくてよ。山道管理用の隠し通路ね」
「んー、使われなくなってかなり経ってるみたいだけど、塞いでないんだ……」
そんな穴の方に興味津々な皆をよそにクラトスは山道を行こうとしていた。
「……そろそろ行くぞ」
「おい、あの女の正体を突き止めなくてもいいのかよ?」
「どうせまた向こうから来るだろう。ここは狭いし足場もよくない。場所を移した方が賢明だ」
クラトスの判断に皆従い、とりあえずは山道を進むことにした。
山道を降りたのと同時に、通路に蓋をしていた板が倒れる。
そこから出てきたのは先ほどの女。何があったのか、服は所々汚れ、息は切れ、何とも哀れな姿であった。
「……ま、待て!」
「……すげー、追いついてきた」
無事に、とは言いきれないが生きていた女の姿にコレットが息をついて歩み寄る。
「ああ、よかっ――」
「う、動くな!」
「……賢明な判断ね」
先ほどのようにコレットに下手に動かれて何かが起こってはたまったものではないだろう。
「さっきは油断したが今度はそうはいかない……覚悟!」
懐から札を出すとそこから式神を顕現させる。そして、それと共に女も向かってくる。
「炸力符!」
「っぁ!」
女の貼り付けた札の力でレイラは大きく吹き飛ばされる。
「やらせない!」
詠唱を始めるレイラを攻撃しようとする式神はコレットが防ぐ。
「……ファーストエイド!」
自らの傷を癒し再び前線へ出る。
式神が厄介な上、女の力量も目を見張るものであり、お互いボロボロになりながらも攻防が続いた。
それでも何とか女を退けることができた。
「……くっ、覚えていろ! 次は必ずお前たちを殺す!」
捨て台詞を残し、煙幕と共に女の姿は消えてしまった。
「どうして俺たちが狙われるんだ」
「……いつの世にも救いを拒否する者がいる」
「ディザイアンの一員なのかも」
「さあな。いずれにせよ我々は常に狙われている……それだけのことだ」
そんな会話の傍らでリフィルが考え込んでいた。
「……あの服」
「先生、どうしたんだ?」
「……いえ、何でもなくてよ。行きましょう」
「そうだな。とりあえず船を出してくれそうな所を探そうぜ」
ここを越えたら海沿いに出られる。そこから海を渡る手段を探さなくては。