戦う意志

峠にやけに人が集まっている。そのことを訝しく思い聞いてみる。

「あんたたち、しばらくここにいた方がいいよ。間違ってもパルマコスタの方には行かない方がいい」
「何か、あったのですか?」
「ディザイアンたちがパルマコスタへ向かったらしいんだ。しかも、牧場の主マグニスまで一緒だって話だ」
「なんですって!」
「ほとぼりが冷めるまで、わしらはここで足止めさ。あんたらも、しばらく遠出は控えた方がいい」

およその話を聞いてロイドが憤慨する。

「ディザイアンの奴ら、パルマコスタで暴れやがったら絶対許さねえぞ!」
「ロイド、落ち着きなさい。どうしたというの」

それをリフィルとクラトスに宥められ冷静さを取り戻す。
そのまま彼らは、ディザイアンを止めるべくパルマコスタへ向かっていった。

パルマコスタの広場では、ディザイアンや民衆が集まっていて、中央には処刑台が置かれ、そこに道具屋の女主人が今にも吊るされようとしていた。

「どけ! マグニスさまがお出ましだ!」

民衆が隅に寄るとそこを我が物顔で通る大男が。

「東の牧場のマグニスだ……」

町人のひとりがそう言えば、それを聞きとがめたマグニスが声の主の元へ向かい……

「マグニスさま、だ。豚が……」

その人の首を掴み高々と持ち上げ、握力だけでその骨を折る。

「なんてことを……!」

処刑台の傍のディザイアンが高らかに宣言する。

「この女は偉大なるマグニスさまに逆らい我々へ資材の提供を断った。よって、規定殺害数は超えるものの、この女の処刑が執り行われることになった!」

ロイドが憤り、近くの民衆に街の兵士がどうしたか訊ねる。

「演習でほとんど出払ってるんだよ」

つまり今、パルマコスタは完全に無防備な状態にあるということ。

「母さん!」

母の危機を知ってか、駆けつけたショコラが処刑台の元へ走りよる。

「動くな、そこの女! 下手に逆らうと死んだ方がマシな思いをすることになるぞ」
「ドア総督がそんなこと許すもんですか!」
「ドアか……ガハハハハ! 無駄な望みは捨てるんだなあ!」

マグニスが高笑いと共に処刑台の板を踏み抜こうと片足を上げる。
そこに小石が飛んでくる。投げたのは子供だ。

「この……薄汚い豚があ!」
「やめろ!」

処刑台から降りたマグニスにロイドが魔神剣を当てる。
それをリフィルが諌めた。

「ダメよロイド! ここをイセリアの二の舞にしたいの?」
「何言ってんだ! ここはディザイアンと不可侵契約を結んでるわけじゃねぇだろ! 目の前の人間も救えなくて世界再生なんてやれるかよ」
「私もこんな処刑を見過ごすなんてできません!」

コレットもロイドの言い分に同意する。
ディザイアンが、ロイドの存在に気付いた。

「……お前は手配ナンバー0074のロイド・アーヴィングだな!」
「お前が例のエクスフィアを持ってるという小僧か! ガハハハハ! こいつはいい! ここでお前のエクスフィアを奪えば五聖刃の長になれる。
お前ら、あの小僧どもを狙え!」

マグニスの合図と共に魔術が放たれる。
そこにジーニアスが割って入り、放たれた火球をいともあっさり防ぐ。

「まだまだ修行が足りないね」
「くそっ! このへたれどもが! もういい! まずはこの女の始末をつけてやる!」
「危ない!」

処刑台の板が踏み抜かれてしまう。
そこにすかさずコレットがチャクラムを投げ、カカオを吊るしていたロープを切る。

「何だと!?」

ディザイアンの注意がチャクラムに逸れている隙にクラトスはマグニスの方へ斬りかかる。レイラはカカオに駆け寄る。

「もう、大丈夫ですから」

落下で地面に体を打ち付けたカカオに癒しの術をかける。応急処置にしかならないが、十分だろう。

「さ、ここは私達に任せて」

剣を抜きショコラたちを守るよう立ちはだかる。
クラトスの方はマグニスを斬りつけ、神子の意志に従う方針を主張する。
そのことでコレットが神子だと気づいた民衆がにわかにざわめく。
誰もがディザイアンに戦う意志を見せたことにリフィルが諌めようとする。

「みんな、分かってるの? ディザイアンに逆らうと、この街もイセリアのように襲われるかもしれないのよ」
「そうさ、分かってる! 二度と同じ間違いは繰り返さない。牧場ごと、叩き潰してやるさ!」
「無茶だわ、そんな……」
「どのみち、俺もコレットも奴らに狙われてるんだ。
それに俺たちには神子がついてる。世界を再生する救世主がさ! な、コレット!」

ロイドがコレットを振り返り告げる。
コレットは少しの間を置いた後、にこりと笑顔を見せる。

「……うん。私、戦うよ。みんなのために」

リフィルがその様子に些か呆れたようなため息をつくが、その顔は優しい。

「もう、本当にバカな子たちね。……心配だから、私も手伝うことにするわ」
「先生! ありがとう!」

マグニスは誰もが自らを逆らうことが気に入らないらしい。

「くそっ、どいつもこいつも俺さまを馬鹿にしやがって。お前たち! この連中の始末は任せたぞ」

それだけ言って転移してその場から離脱する。

「よくもマグニスさまを! さっさとくたばるがいい!」

残ったディザイアンがロイドたちに襲いかかる。

「離れて!」

ショコラたちから離れたレイラはディザイアンを迎え撃つ。
所詮は下っ端。対した実力でなくすぐに片付けることが完了した。

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