神様と剣と
無事にショコラとカカオを道具屋まで送り届け、礼を言われる。
「みなさん……ありがとうございました」
「お母さんを助けてくれて本当にありがとう! お母さんまで殺されていたら、私、どうしたらいいのか……」
「お母さんまでって……」
ショコラの言葉にジーニアスが首を傾げる。
「主人はドア総督の義勇兵に参加してディザイアンと戦い、戦死しました。私の母も牧場へ連行されて……」
ショコラには母親しか残されていない、ということだった。
「うちの店は元々おばあちゃんが始めたの。だからおばあちゃんが帰ってきた時のためにも店を守らなきゃ……
ごめんなさい。そろそろ私、行かないと。次のアスカード旅業がもうすぐ出発する時刻なの」
「アスカード旅業って?」
「私、教会付きの旅行代理店で働いているの。でも、別にマーテル様を信じてるわけじゃないのよ」
「ショコラ! なんてことを!」
神子の前であらぬ発言をしたショコラをカカオが叱責する。とはいえコレットはそれで怒るような性格はしていないが。
「分かってる。神子様には感謝してるわ。でもマーテル様はお父さんもおばあちゃんも守ってくれなかった。今だってお母さんを守ってくれたのは神子様とお供の方だもの。私たちが苦しいときに眠っている神様なんてあてにできないじゃない」
コレットは少しだけ悲しそうに彼女の主張を真剣に聞いていた。
「そっか……そうだよね。でもね、やっぱり神様はいると思うよ」
「そうかしら……」
「うん。いると思うよ。……あなたにも、私にも」
「神子様がそう言うなら……私も一応信じてみる」
ショコラも、渋々納得はしてくれたようだ。
仕事の支度をしようとするショコラにロイドが呆れた声を上げる。
「こんなことがあった後も旅行なんか行くのかよ」
「こんなことがあったから熱心な信者もそうでない者も救いを求めて旅に出るのだろう」
「そういうこと。それじゃあ、本当にありがとう!」
ショコラもカカオも仕事に戻る。
皆も今日はパルマコスタで宿を取り休むことにした。
ふとレイラが何か考え込んでいることにコレットが気付く。
「どうしたの? レイラ」
「マーテル様って、どんなお方なんだろう」
レイラの唐突な疑問にコレットが目を丸くする。
「マーテル様は私たちに慈悲を与えてくださるってよく言われるけど、マーテル様自身はどのような考え方をしているかとか、何も分からないから気になって」
教えを読み解いても、救いをもたらし慈悲を与えるとあるだけ。一体どんな救いなのか、それは全く分からない。
「それは……きっと、皆にそれぞれのマーテル様がいて、どんなお方なのかはそれぞれ違うんだと思うよ」
「……そうだね。そういうことに、しておくね」
レイラは微かに笑みを浮かべる。
2人とりとめのない話をしながら歩いていると宿から連れたって出ていくロイドとクラトスを見かけた。2人は珍しいと思いつつ声をかける。
「あれ? ロイド、それにクラトスさんも。どこか行くんですか?」
「クラトスに剣の特訓にしてもらうんだ」
「あ、それなら私も行きたい。いいでしょうか?」
「構わん」
レイラも剣を手にロイドたちに着いて街外れに行く。コレットは宿で待つことに。
「どうだ?」
「まだまだだ。そもそも二刀流は本来の剣の型から外れたものだ。隙もできやすい」
「そうなのか?」
「そうだよ。剣を2本って意味なら……」
レイラは懐から短剣を取り出し右手にいつもの長剣、左手に短剣を持ち構える。
「こういう型があるけどね。これは盾の代わりに短剣を持って、攻撃を受け流すものだから、ロイドのやろうとしてることとは違うけど」
「レイラは盾を使わねぇのか?」
「重いから、無理。だから一応こういう型も覚えた……みたいだけど」
詳しいことは知らない、と首を横に振る。
「そもそもお前は何故二刀流を選んだのだ?」
「それ、私も気になってた」
「一本の剣で100なら2本で200になって強くなると思ったんだけど……おかしいな」
ロイドは冗談などではなく本気でそう思っているようだ。
「…………」
「な、何だよ。何2人してそんな哀れそうな目で俺を見るんだよ」
ロイドもこれにはたじろぐ。
「いや……」
「……馬鹿と天才は紙一重とは言うけどね……」
「……へへ」
「褒めてないからね」
本気で呆れてしまうのであった。