ドアの真実

総督府はもぬけの殻であった。ドアの居所は分からない。
コレットが地下から声がすると言い、誰もいない以上は一先ず地下へ向かう。
案の定、ドアはそこにいた。ディザイアンと密会している様子だ。

「妻は……クララはいつになったら元の姿に戻れるのだ」
「まだだ。まだ金塊が足りないからな。段々少なくなってくるな」
「これが精一杯だ! 通行税に住民税、マーテル教会からの献金。これ以上どこからも搾り取れん!」
「まあよかろう。次の献金次第では、マグニスさまも悪魔の種子を取り除いてくださるだろうよ」

そう言ってディザイアンは去っていく。

「お父さま……」
「もう少しだ。もう少しでクララは元の姿に戻れるのだ。旅業の料金を底上げして……」
「どういうことだ」

ロイドが声を掛ければ、ドアの顔が悲壮に歪む。

「何だよその面は。まるで死人でも見たような顔じゃねえか」
「ねぇロイド。その台詞、ありがちだよ」
「うるせー!」

ジーニアスの揶揄にロイドが言い返す傍ら、ドアはわなわなと震える。

「何故、神子たちがここに……。ニール! ニールはどうした!」
「ニールさんはいなくてよ」
「そうか……。ニールが裏切ったのか!」
「それをあなたが言うの?」

パルマコスタを裏切り続けた彼に、ニールを責める権利はあるのだろうか。

「あんたの奥さんがどうしたってんだ? 人質にでもとられてるのか?」
「人質だと……? 笑わせる、妻なら――」

ドアが傍の牢に掛かっていた布を引き、取り去った。

「ここにいる!」
「……!」

それを見た途端、レイラは息を詰まらせた。
人間の倍はある巨体、地面まで届く長い腕、毒々しい肌の色。
纏っているドレスから、辛うじて人であったものだと判断はできた。
見たことのない筈の異形の化け物は失った“何か”を強く呼び起こす。

(やだ……やめて……)

強い頭の痛みが起こる。聖堂の時とは比べ物にならない。心臓が早鐘を打つ。ここまで心を揺り動かされることなんてこの3年、なかった。
ドアが何かを喚く。それにロイドが激昂する声が耳に入る。
だが、レイラにはその言葉の意味が頭に入ってこない。
頭を抱えて蹲りたくなるのを、肺が締め付けられるような感覚がし呼吸が乱れそうなのをなんとか抑えこもうと、手の甲に爪をたてた。
今、この場で精神を乱している様を晒している場合ではない。
皆に気取られないように、静かに息を吸い、吐き出す。少しだけ落ち着いてきた。
コレットがロイドやドアを諭しているのが分かる。ドアもそれに憑き物が落ちたような顔になる。

「……私を、許すというのか」
「あなたを許すのは、私たちではなくて街の人です。でもマーテル様はきっとあなたを許してくれます。マーテル様はいつでもあなたの中にいて、あなたの再生を待っていてくださるのだから」
「私の中に……」

コレットの言葉はドアの心に届いた。彼が心を改めようとしたその瞬間、

「ばかばかしい!」

今まで眉一つ動かさず成り行きを見ていたキリアの声が響いた。

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