信頼

「どうして、得体の知れないよそ者が閉鎖的なあの村に3年も住めたと思う?」
「記憶がないからじゃねぇのか?」
「それもあるよ。けど、1番の理由は……コレットの護衛という役目を与えられたから。そうすることで、私はあの村に留まれた」

そのコレットがぽかん、と口を開ける。

「考えてみて。剣を持った記憶喪失の子供が村に飛び込んできて……多くの人は同情するより先に気味悪がる。得体の知れなさ、何かしでかすんじゃないかって恐怖でね」
「そんなこと……!」
「ロイドたちには何てことなくても、多くの人はそう思う。本当なら、見つけられた時の怪我が治った時に、村を出ていかなくちゃならなかったんだ」
「でも、いくら剣を使えても、記憶のない子どもが行くあてはないでしょう? そのことを気遣われたファイドラ様の計らいによって、レイラはあの村に住む理由を手に入れたのよ」
「でもそれは、コレットが旅に出ると同時に村を出なくてはならないという意味でもある。だから、私は旅立ちと同時にあの村を事実上、追放されたも同然なんだ」
「そんな……!」

コレットが信じられない、というように悲痛な面持ちになる。
レイラは自嘲的な笑みを浮かべた。

「……幻滅した? 私はコレットを利用して一時的でも居所を得ていた、勝手な人間なんだよ」

レイラは半ば自棄になっていた。自己嫌悪に陥っていた。いっそ、このまま突き放されても構わない。そう思っていたのに、コレットからの言葉は予想もしていなかったものであった。

「そんなことないもん! 私、知ってるよ。レイラがとっても優しい人だって! だってレイラは私を何度も助けてくれたもん!」
「そうだよ! 姉さんからこっそり勉強を教わりながら、剣の練習も欠かさずやってて、本当に利用してたならあんなに熱心に努力してる筈ないじゃんか!」
「レイラは俺みたいに村の人たちに何かした訳じゃねえ! それなのに追放なんてそんなのおかしいじゃねえか!」

イセリアの3人の子どもたちは3年間、レイラという人に触れ続けて、その性質が、心が、とても綺麗なことをよく知っている。

「そうね、この子たちの言う通りだわ。きっかけはどうあれ、あなたは今、自分の役目を真摯に果たそうとしているわ。それでよいのではなくて?」

リフィルだって、子どもたちとは違う視点からレイラを見て、信頼の置ける人物なのか、正しく見極めているつもりだ。
皆の必死な表情、リフィルの諭すような、それでいて優しい表情、それらはレイラの心に暖かいものが流れ込む感覚をもたらす。
レイラが思っているより、レイラは皆の信頼を得ていた。それを改めて感じる。

「ありがとう、みんな……私、みんなと一緒にいて、いいんだね……」

自分はここにいてもいいのだと、そう思うと、目元が熱くなった。

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