歪められた事実

牧場まで戻ってきた皆をニールが迎える。
皆の様子で何があったか察した彼だが、事実を受け入れ、牧場への同行を頼まれる。
ドアの遺言を、果たすため。

裏口から、ドアに託されたカードキーで侵入する。

「収容された人たちだ……」

人々の収容されたフロアに辿り着く。皆、顔色が悪く痩せこけて、環境の悪さが伺える。

「ねえ、助けてあげようよ」
「そうね。後々のことを考えるとこのまま放置しておくのはまずいわね」
「よし、二手に分かれるか?」

その提案にすかさずニールが却下する。

「いえ、ここは私に任せてください。後詰めでパルマコスタ軍の者も追ってきています。私は彼らと合流してこの人たちを救出します。神子様たちはショコラをお願いします」
「はい、こちらこそ町の人をお願いします。気をつけてください、軍の者がいるとはいえ、何が起こるかは分かりませんから」

人々をニールに任せ、皆はショコラを探すため奥へと進んでいく。

「面倒くさい構造だね……」
「どうなっているんだよ、ここ」
「飽きた、とは言わないんだね」
「あのなー!」

転移装置がいくつかある部屋が連続して続いている上、下っ端の兵士たちもうろついていてそれも掻い潜らなければならない。
そんな場所を抜けていき、ある地点に辿りついた時だった。

「ロイド! あれ!」
「待て! ショコラを放せ!」

ディザイアンに連行されていくショコラを見つけた。

「はっ!」

ディザィアンを斬りつければあっさり倒れる。ショコラに怪我はないようだ。

「あなたたち! 助けに来てくれたの?」
「うん。だいじょぶ?」
「ええ。大丈夫です。神子様、皆さん本当にありがとう」

ほっとした様子の面々をクラトスが諌める。

「気を緩めるな。我々はまだマグニスを放置したままなのだからな」
「総督府のニールが、ここに収容されている人たちを連れて脱出しています。私たちは管制室を押さえて、彼らを安全に脱出させないと」

リフィルの説明に、ショコラの目がぱっと輝く。

「ドア様が、いよいよ動き出したんですね!」
「あ……ああ……まあ……」

ショコラの期待の目に、ロイドたちは言葉を濁すしかなかった。真実を話すのは、残酷すぎる。

「管制室かどうか分からないけれど、この部屋の奥にはきらきら光る壁とか魔法みたいなものがたくさんありました」
「きっと、そこかもしれない。私たちが今まで来た所にそんなものはなかったから」
「じゃあ、ご案内します」
「そうね。少々危険かもしれないけれど、お願いできて?」
「はい。こちらです!」

ショコラの先導のもと、転移装置で転移する。

「ようやく到着か。天から見放された神子と豚どもが」

管制室にはマグニスが待ち受けている。

「天から……見放されただと?」
「天から見放されたのはマグニス、お前だ! ここで叩きのめしてやるぜ!」

だがそれを嘲笑うようにディザィアンが皆を取り囲む。

「囲まれました〜……」
「がははははは! 所詮は豚の浅知恵よ。お前たちの行動は筒抜けだ。劣悪種が逃げ出そうとしているのもな」

その言葉と共に管制室にある画面の1つにあるものが映し出される。

「なんであんな所にニールが入ってるの?」
「あれは投影機。魔科学の産物だ」
「遠くの人や物を映し出す装置よ。これに私たちも映っていたのね」

ニールたちのいる部屋の扉が全て閉ざされる。魔科学の技術を使った扉は彼らにどうこうできる筈もなく、その場で右往左往している。

「ああ! 閉じ込められちゃったよ!」
「無駄無駄無駄! お前らの行動は、何もかも無意味なんだよ!」
「無意味なんかじゃない! 今からお前を倒せば、みんなを助けられるじゃないか!」
「よくそんなことが言えるなぁ? イセリアでの厄災はお前の無駄な行動のせいだろうが」

イセリアのことを持ち出されると、ロイドは何も言えなくなってしまう。

「それは……」
「ロイド、それを無意味かどうか決めるのはマグニスじゃない。ロイドだよ」

誰が何と言おうと、レイラはそう考えている。
だがロイドの沈んだ様子をマグニスは更に嘲笑う。

「そうだ、投影機に映っている連中であの時の再現をしてやろうか? 培養体に埋め込んだエクスフィアを暴走させて、化け物に変えてよぉ!」
「や、やめろ!」
「遠慮するなよ。お前が殺したあのババア……マーブルのようにしてやるよ!」

それに反応を示したのは、ショコラであった。彼女の顔が凍りつく。

「マーブル……? マーブルって、まさか……」
「そうなんだぜ、ショコラよぉ。お前の祖母マーブルはイセリアの牧場に送られ、ロイドに殺されたんだ。無惨な最期だったそうだぜぇ!」
「待ってよ! 違うんだ! ロイドはマーブルさんを助けようとしてくれたんだ。でもディザイアンがマーブルさんを化け物にして――」
「ロイドが殺した」
「う……そ……」

突きつけられた歪んだ事実にショコラは抵抗をやめ、ディザイアンに拘束される。

「ショコラさん!」
「くそ! ショコラを放せ!」
「放っておいて! おばあちゃんの仇になんて頼らない! それぐらいなら、ここで死んだ方がマシよ!」
「死ぬなんてこと言っちゃだめだよ! どんな状況だって死ぬより生きている方がいいよ絶対!」
「……私のことはドア様が助けてくださるわ。放っておいて!」
「がははははは! そうか、ドアになぁ……。まあいい。連れて行け!」

そのまま、ショコラは転移装置でどこかへ連行されていく。

「待て!」

追いかけようとするも、ディザイアンに阻まれてしまう。

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