たらい
救いの小屋にスピリチュア像を貰おうとしたが、小屋にある像は偽物。本物は一昨年の巡礼の際、ソダ間欠泉に落としてしまったそうだ。ちなみに偽の像はダイクが作ったものらしい。
とはいえ、いくら精巧でも偽物でコットンの目はごまかせないだろう、あの老人の審美眼自体は本物だ。ということでソダ島まで行き取りに行くこととなった。
その為に遊覧船乗り場まで行き、いざ乗ろうとしたのだが……。
「たらい……だよな?」
「たらいだ……」
「たらいだね……」
「たらい、か……」
「うわあ、面白そう!」
「わ、私はここで待っています。さあ行ってらっしゃい」
1名を除けば、皆唖然とした。そしてリフィルはやけに慌てている。
「どうしたんだよ、先生」
「別に、何でもありません。よくって? 私は乗りません」
「面白そうですよ。乗りましょう」
「中々できない、貴重な体験になりますよ」
「そうだよ、姉さん!」
ジーニアスがリフィルの腕を取り、引っ張っると。
「……きゃ……」
リフィルらしからぬ悲鳴に皆一様に目を見開き、口をぽかんと開け唖然とした。
「……きゃ?」
恐る恐る、何となくそんな気はしていたがあえて触れなかったことについて尋ねるロイド。
「先生、まさか……水が怖い……とか?」
「きゃあ楽しみ、と言いかけたんです!」
中々苦しい言い訳と共にたらいに乗り込むリフィル。
「意地っ張りだなあ……」
「……フ」
そんなリフィルに却って微笑ましく思いながら他の皆も乗り込み、ソダ島まで向かうのであった。
底の深くないたらいは少しの波に大きく揺れ、波が高ければ水が入るために悪戦苦闘しつつも何とか辿り着く。
「……やっと着いた……のね……」
リフィルの顔は真っ青だ。
「よく頑張りましたね、先生」
レイラはからかい混じりにリフィルを労うが、そんなからかいにも気付かないくらいリフィルは消耗していた。
「面白かったね〜、ロイド」
「海水が入ってきて転覆するかと思ったよ!」
いつもと変わらず楽しんだコレットに、悪戦苦闘したジーニアスと、反応は様々。
「ほら先生」
「あ、ええ。ありがとう」
伸ばされたロイドの手を素直に取り、リフィルもたらいから上がった。
「……貴重な体験だったな」
水が苦手でも間欠泉自体には興味があるのか、リフィルは溢れ出る間欠泉を眺めている。
「先生、間欠泉を眺めるだけなら平気、とか?」
「誰も水が怖いなんて言ってないでしょう?」
「あはは……」
ここに来て意地を張るリフィルにレイラも苦笑するしかなかった。