水の封印
「よくぞ第二の封印を解放した。神子コレットよ!」
「はい、お父様」
無事、滞りなく祭壇に辿り着き、封印の守護者を倒し、コレットが祈りを捧げる。
そこにレミエルが降り立ち、コレットと向き合う。
「…………」
コレットの言葉にレミエルが一瞬、何故か沈黙する。
「クルシスから祝福だ。そなたに更なる天使の力を授けよう」
「……は? はい……?」
レミエルの様子にコレットも戸惑うが、そんなことは露知らず、前と同じようにコレットが光に包み込まれる。見た目の変化はないようだ。
「次の封印はここよりはるか北。終焉を臨む場所。かの地の祭壇で、祈りを捧げよ」
「お父様。私、何か御不興を買うようなことをしましたか?」
「……別によい。そなたが天使になればいいだけのことだ」
前に比べてレミエルの機嫌が複雑なものだということはレイラにも見て取れる。だがそれ以上は、分からない
「また次の封印で待っている。我が娘……コレットよ。早く真の天使になるのだ。よいな……」
それだけ告げて、天へと戻っていった。
「なんだアイツ。相変わらずエラソーな感じ」
「コレットに謝りなさい」
ジーニアスがぽろりと零せばリフィルがそれを諌める。
「いいんです。お父様……レミエル様って本当に偉そうだし」
いつもなら笑って許すコレットだが、やけに沈んだ表情をしている。それはレミエルの様子がおかしかったからかと、特に誰も気に留めなかった。
「さて、次の封印を探すとするか。……あいっかわらずわかりづれーけどな」
「その為のスピリチュア像でしょ。どちらにせよ峠は越えなきゃいけないし」
「……行くぞ」
とりあえずは封印の場所から出ることになった。
橋を渡り、たらいまで戻ろうとした時、コレットの体がふらつく。
「コレット!」
レイラが支え、転倒は防ぐ。
(軽い……?)
ふと、違和感を感じる。前の時もこうして支えたが、その時よりコレットが随分と軽く感じられた。
「すぐに休ませましょう」
「野営の準備だな」
「ええ……それにしても封印を解放する度こうだとするとコレットも辛いわね。さしずめ天使疾患とでもいうのかしら」
「コレット、大丈夫? つらい?」
「ううん。またすぐに治るから……。ごめんね」
「もー、お前謝るの禁止な」
「えへへ……ごめんなさい」
ロイドに言われてもコレットは謝るだけだった。
ロイドも寝静まり、起きているのがコレットと、寝ずの番をしているクラトスだけになった頃。
コレットはレイラの寝顔を眺めていた。思い出すのは、拾われたばかりで目覚めなかった頃のこと。
見知らぬ女の子にロイドを取られるような気がして、不安になっていた。目覚めてからは彼女の状況のためにそれどころでなくなったし、彼女の気質を知って不安もすっかり吹き飛んだ。だが、そんな不安を告げたら、彼女はどんな顔をするのだろうか。そんな意味のないことばかりが浮かんでくる。
でも、彼女なら、驚きはしてもそれでコレットを軽蔑したりすることなんてない。聞かなくても、彼女はそうするという確信が持てた。彼女はコレットの気持ちを理解して、その先の未来にコレットがいないことも知った上で応援してくれている。
そういえば、レイラは誰かを好きになったりしないのかな、不意にそんなことを考えた。
もしかしたら、出会う前は誰かいたのかもしれない。これからできるのかもしれない。
周りのことには敏感でも、自分のことにはあまり気が回らない彼女は、きっと恋でも同じで、想いを抱いても気付けない。そんな光景が浮かんで、微笑ましさと寂しさを感じた。