精霊の踊り手

アスカードの街は遺跡があることにより観光事業が盛んな筈だが、やけに閑散としていた。
そんなこともいざ知らず、リフィルの目が輝いており、そのリフィルを先頭にして着いた場所は……

「おお、アスカード遺跡だ……」

アスカードにある石舞台。存在は学んでいても実物を見たのはこれが初めて。レイラも貴重なものをしっかり目に焼き付けておこうと眺める。

「ロイド。この遺跡の歴史的背景を述べよ」
「え、えっ。えっと……」

言葉に詰まるロイドに即座にジーニアスが助け舟を出す。

「クレイオ三世が一週間続いた嵐を鎮めるため風の精霊に生け贄を捧げる儀式をとりおこなった神殿」
「……です」

そんなロイドの体たらくにリフィルは嘆く。

「ああ……。この5年間貴様は何を習ってきたのだ!」
「体育と図工と……」
「もういい!
素晴らしいフォルムだ。この微妙な曲線は、風の精霊が空を飛ぶ動きを現すとされている。更にこの石はマナを多分に含んでいると言われ、夜になると……」

リフィルの講義にコレットとレイラは耳を傾ける。ロイドとクラトスは聞く気がないらしく周囲を眺めている。

「勉強になるね〜!」
「まぁ、ね……」

リフィルの目の輝き具合とコレットのいつも通りさにレイラも苦笑する。
ふと、石舞台の反対側から声が聞こえてきた。見れば、ロイドが誰かと話しているようだ。

「違います! ボクたちは別に遺跡を破壊するつもりでは……」

その言葉がリフィルの耳にも届いたのか、即座に舞台に飛び上がり、声の主へと駆け出していってしまった。

「……先生……」
「……余程遺跡が好きなのか。或いは……幼い頃何かがあったのかもしれぬな」
「……ジーニアスに聞いてもわからなさそうだし、先生に下手に触れるのもよくなさそうですしね……」

雄弁を垂れるリフィルを石舞台越しに遠い目で見つめるしかなかった。
何やら察するに、遺跡を破壊しようと爆弾を設置した2人組と、それを止めるリフィルといった所か。
誤って爆弾が起動したりと紆余曲折あったのをただ見ているしかない。リフィルに蹴られる2人は哀れだが。

「こらっ! そこの者! 石舞台は立ち入り禁止じゃ」

そうしている内に町長に見咎められ、ひとまずは皆も石舞台から降りていった。

リフィルが破壊をやめさせようと息を巻くのでその2人――ライナーとハーレイに会い、彼らから話を聞くこととなった。
何やら石舞台の封印を解いて風の精霊が甦り、生け贄を要求しているそうだ。
それにライナーの妹、アイーシャが選ばれてしまい、それをどうにかしようと遺跡を破壊という暴挙に出てしまったようだ。

「それはいいのだけどね……」

どうしてこうなった、とレイラはため息をついた。
遺跡を調べるために石舞台に上がりたいリフィルはなんと、その生け贄となる精霊の踊り手を代わりにやろうと申し出たのだ。
今はそのために衣装の着付けを手伝っていた。

「先生って綺麗だから、この服もよく似合いますね。これっきりだなんて勿体無い」
「ふふ、ありがとう」

普段は動きやすさを重視して男物の服を着ているせいか、女性用の衣装はことさら珍しい。

「あなたも化粧までとはいかなくても、手入れくらいはした方がよくてよ。肌も荒れてるし、髪も少し傷んでいるわ。女の子なのだから、もっと身だしなみに気を使いなさい」
「そうでしょうか?」

神子の護衛として恥ずかしくない程度には身だしなみは整えていたつもりだったが、リフィルからするとちゃんとしているのうちに入らないようだ。
言われてみれば、服装こそ実用性を重視しているが、リフィルは化粧を施していて、その美しい顔立ちをさらに引き立たせている。それが大人の嗜みというものなのだろう。
そういうものは自分にはあまり関係ないかな、とレイラはどこかで考えていた。特段、見た目を綺麗に見せたいと思えないのだ。最低限の手入れさえしていればそれでいいという認識だ。
そうこうしているうちに着付けを終え、石舞台へと向かっていった。

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