偽り

石舞台の上で舞うリフィル。その彼女はとても綺麗で、本来の目的も忘れてしまうほどだ。
踊りを終えるとそこに精霊が現れる――が。

「娘を貰い受けに来た」

精霊とは思えない邪気を感じる。あれは精霊などではない、と一目で分かる。

「……違う、違います先生! それは邪悪なもの。封印の守護者でもない」

コレットも気付き、皆は武器を手に舞台に上がる。

「光よ……フォトン!」

いち早くリフィルが術を唱える。光によって魔物は怯む。

「散沙雨!」

その隙にロイドが突きを放つ。

「先生!」
「分かっています。準備はよろしい?」
「いつでもいけます!」

レイラがリフィルに呼び掛ければ、それでレイラの考えを察したリフィルは詠唱に移る。
そしてリフィルの放つ光を纏いながら、

「雷光剣!」

雷の突きを放てば、魔物は倒れた。

「これは……」

魔物が落とした石版にすかさず気付いたリフィルが拾い上げた。
その見事な戦いっぷりに見物していた街の人たちから賞賛の声が上がる。

「素晴らしい! 素晴らしいですリフィルさん!」
「フフ。この程度の敵、大したことではない。それよりさっき手に入れた石版だが……。
この石版には古代バラクラフ文字が書かれているな」

石版をリフィルが指し示せば、ライナーは目を輝かせる。

「早速解読しましょう! ボクの家に資料が揃っています」
「ああ、行こう!」

あっという間にリフィルとライナーはこの場を去ってしまった。

「あの……ありがとうございました」
「あいつは風の精霊じゃなかったんだな」

命拾いしたアイーシャはおずおずと礼を言い、ハーレイは魔物の方に興味を示す。

「あいつの正体ならきっと姉さんとライナーさんが調べてくれるんじゃないかな」
「ああ、あのリフィルとかいう先生、ハーフエルフだしな。知識は確かだろう」

ハーレイの言葉にジーニアスが大きな動揺を見せる。

「ち、違います! 姉さんは……エルフです。ボクもエルフですっ!」
「おいおい、俺が同族を間違えるとでも……」

街の人達から鋭い視線を向けられるジーニアスを見て、ハーレイは言葉を止める。
俯いたジーニアスに何か言葉を、と思ってもレイラは言葉が出てこなかった。

「いや、違った。あんたたちは生粋のエルフみたいだ。俺が勘違いしたみたいだな」

懐疑的な視線に思う所があったか、ハーレイが笑い、自らの言葉を訂正した。

「……俺たちも休もうぜ。疲れちまった」

ロイドがジーニアスの肩に手を置いて告げる。コレットも笑顔を浮かべる。
そんな3人の背中を見送りながら、レイラはハーレイに話しかけた。

「……ハーフエルフというとディザイアンみたいなのばかりと思ってたけど、あなたは違うんだ」
「俺が? 冗談じゃない。人間にライナーたちみたいなのから町長たちみたいなのがいるように、俺たちハーフエルフだって色々いるんだ」

ライナーやアイーシャという友人に恵まれた彼は、街の人達からどんな目で見られても堂々と暮らしていられるのだろう。
ジーニアスやリフィルも、そうなってくれたら嬉しいなと、ハーフエルフであることに誇りを持ち、隠さずにいながら、人間を見下さない青年を見て内心で思うレイラであった

翌朝、帰ってこなかったリフィルを迎えにライナーの家まで行く。

「ちょうどよかった。今解読が終わったのよ」
「リフィルさんは素晴らしい方です! 複雑なバラクラフ語をあっという間に解読されたんですから!」
「……うわ、また姉さんのファンが増えたよ」
「魔性の女だな」
「ねー」

そんなことを零すジーニアスをリフィルが平手打ち。
そして何事も無かったように考察を進めていく。

「あの魔物は古代バラクラフ帝国を襲っていた厄災の原因だったようね」
「それを当時の召喚士が風の精霊シルフを使役して封印し、厄災を鎮めるため石舞台を作ったみたいです」
「後の世に厄災が復活した時は風の精霊を使役できるようにこの地図を安置していたのね」

解読した石版を示しながら説明するリフィル。

「そして長い時間を経て厄災は風の精霊と混同された……」
「じゃあ風の精霊がどこにいるのかは分かったんだ」
「勿論です。精霊のいる場所が次の封印よ」
「古代バラクラフ帝国ゆかりの地なら、バラクラフ王廟……ここからはそう遠くないですね」

ロイドとコレットが純粋にはしゃぐ。

「すげー! 風の精霊ってどんなんだろうなー! 早く見てぇ!」
「わぁ〜! これでようやく世界再生ができるんですね〜」

コレットの言葉にアイーシャが疑問を口にする。

「世界再生……? そういえばあなた方はどうしてこの街にいらしたんですか? 旅業や観光にしては……」
「……さあ、行くべき場所が分かったなら先を急ごう」
「そうね」
「あ、あの……」
「じゃあお元気で〜」

深いことを問い詰められる前に別れを告げる。コレットは素だとは思うが。

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