きょうだいと剣と

バラクラフ王廟の中も恐らく試練や仕掛けが待ち受けている。それに備えるため、宿で英気を養っていた。
レイラはロイドに声を掛けられる。

「今からクラトスに稽古してもらうんだけど、レイラも行くか?」
「え? いいの?」
「ああ!」

ロイドからの思いがけない誘いにレイラは拍子抜けしつつも、支度をしてクラトスの待つ場所まで赴く。

「…………」

クラトスとロイドが剣を打ち合うのを見て、レイラは内心で感心する。
ロイドは教わったことをすぐに飲み込み、めきめきと腕を上げる。それでもクラトスの腕前は相変わらず遥か高みまである。
2人とも剣士として、学べるものがある。

「ロイドも腕を上げたよね。イセリアにいた時もそうだったけど、体育と図工みたいな、好きなものについてはすぐ覚えちゃうんだから」
「へへ」
「……できたらその勢いで勉強も覚えたら私が宿題を見てやる手間もなくなるけど」

レイラは溜め息をついてしまう。たまにならいいが頻繁にとなると流石に辟易してしまう。

「ロイドの休憩ついでにレイラ、お前も見てやろう」
「クラトスさんも疲れてるでしょう? 無理することは……」
「私なら平気だ」

確かにクラトスは汗ひとつ出ておらず、息に乱れもない。平気という言葉に嘘はないと思われる。
お言葉に甘えさせてもらおう、とロイドと入れ替わりに立ち上がる。
レイラは剣を手に、クラトスを見据える。隙を――

「っ!?」
「甘い。こちらの隙を伺うのに、お前が隙を見せては意味がない」
「はっ、はい!」

振り下ろされた剣を咄嗟に受け止めて払う。勿論クラトスが本気でかかれば剣を払われることはない。あえてそうされたことは分かる。

「はっ! やぁっ!」

レイラの剣を剣で受け止めては、それに指摘を入れていく。

「相手の急所を正確に狙え、そうすることで足りていない力を補える」
「は、はい!」

言われたとおり、人体の急所を狙うような太刀筋に切り替えていく。

「急所は戦う上で最優先で守る部位。狙っていることを悟られるな。防がれて急所を突くことが難しくなる」
「はい!」

そうした打ち合いを何度か続けていった。

「はぁっ……はぁっ……」

続けていくうちに、レイラの息は切れていく。

「そこまで」

クラトスが打ち止めを宣告し、剣を下ろす。

「大丈夫かレイラ? 汗だくだぜ」
「休めば平気……」

何度も呼吸を繰り返しながら先程までロイドが休んでいた場所に座り込む。
レイラの剣術はクラトスのものと似ているためか、クラトスも指南しやすいのに対し、ロイドの剣は二刀流なため、指南に頓挫していた。
クラトスはそのことに対し申し訳なく思っているようだが、ロイドとしては剣の基本などの大切さを学べただけでも十分なくらいなようだ。

「それにさ、俺男の兄弟とかいねえからさ、兄貴に憧れてたんだよ。剣の稽古とかしてさ」
「……そうか」
「へへ、でも俺の兄貴にしてはクラトスは老けてるけどな」
「……そ、そうか」
「あ、あはは……」

流石のクラトスもこれには閉口する。とはいえ、確かに見た目はともかく中身はやたら老成しているため、フォローの言葉も出ない。

「……というか、うん? 男の兄弟がいないってことは、女の子がいたの?」

そんなことよりも、何故だか先程のロイドの言葉が引っかかり、指摘する。

「まだ3つの時に別れたから、顔も覚えてねぇんだけど……俺、姉さんがいるんだ」
「そうなんだ。初めて聞いた」
「初めて言ったからな。だから、親父以外だとレイラとクラトスだけだな、このこと知ってるの!」
「そっか」

レイラはくすくすと笑う。秘密を共有するというのは心が躍るものだ。

「3つってことは、ロイドのお母さんが亡くなられたのと同じ頃だよね。生きては……いないかな」
「いや、生きてるさ。絶対に」

そう言い切るロイドの顔には絶対の自信があった。

「そっか。どこかで、会えるといいね」
「ああ!」

2人は笑い合う。それをクラトスが、何とも言えない面持ちで眺めていたことも気付かずに。

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