決意の暗殺者

「閃空裂破!」

回転切りで式神を斬りつける。あんなにも必死でいるしいなを殺すのは気が引ける。レイラは式神に専念することにした。大丈夫、他のみんなも彼女を本気で殺しにかからない。
が、しいながレイラに駆け寄り……

「散力符!」

札を貼り付けてくる。

「っ、力が……」

剣を握る力が弱まっているのを感じる。おそらくそういう効果の札なのだろう。

「……でも!」

咄嗟にレイラはしいなの喉元に剣を突きつける。

「力は抜けても、ここであなたの喉元を切り裂くことはできる」

この距離なら、レイラの方が有利だ。札のリーチの短さ、殺傷能力の低さが災いしている。

「くっ……」
「レイラ!」

しいなが殺されると思ったコレットが悲痛な叫びを上げる。勿論そんなつもりはない。

「私はあなたを殺す気はない。退いて」
「どうして……勝てない……」

流石にここまで追い詰められてはしいなも戦意を失う。そしてその呟きは、

「正義と愛は必ず勝つ!」

ジーニアスが返す。彼らの気に入っているドワーフの誓いだ。

「……何が正義だ。お前たちが正義なもんか! お前たちが正義だというならあたしたちだって正義だ!」
「お前も一緒になって正義正義言うな! 恥ずかしい奴だなぁ!」
「お前に何が分かる! お前たちが世界を再生するときあたしの国は滅びるんだ!」

しいなの言葉にコレットが疑問を顕にする。

「待って。どういうこと? 私が世界を再生したらみんな助かるんでしょう?」
「……助かるよ。この世界はね!」

そう、吐き捨ててしいなは去ってしまった。

「この世界? 世界にあれもこれもねぇよな」
「あの娘……まさか……」
「知ってるの?」
「……いや。それよりここを出よう」

明らかに心当たりのあるクラトスだが、考えても埒が明かない。目の前にある遺跡の出口から外に出た。

遺跡を出て少し歩いた所で、案の定コレットの体が傾く。

「コレット!」

それを受け止めたのはレイラではなくロイド。

「天使疾患ね。早く横にしてあげましょう」
「大丈夫か?」
「また……迷惑かけちゃうね」
「いや、そんなの平気だけど……」

顔色の悪さに反して表情に苦しげな所の見られないコレットは無理に立とうとして、ロイドも巻き込んで転倒してしまう。

「いってぇ……」
「もー! 何やってんだよ! コレット、大丈夫?」

転んだコレットは何故だか、驚いたような表情になる。
そこにジーニアスが駆け込み、コレットの様子を覗き込む。

「ど、どうしたのコレット! 痛かった? どこか怪我したとか?」
「う、ううん。何でもない。えへへ。ぼーっとしちゃった」

そんなジーニアスにコレットは笑って応えた。

いつも通りの野営で、いつもと違うことがあったのを、レイラは知らなかった。

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