絶望の街
マナの守護塔へ向かう前に、ルインの街で休むべく立ち寄ることになった。
そして、辿りついた街は――
「ひどい……」
建物の全てはことごとく破壊され、橋は断絶され、人のいる気配は全くない。
希望の街は、絶望の街へと変貌してしまっていた。
「一体、何があったというの?」
徹底された破壊のされ方は人為的なものだ。人の死体が全く見当たらないのは、逃げ出せたか、あるいはどこかに連れ去られたか。だが、ディザイアンの仕業と仮定するにしても、ディザイアンの間引きには一定の規定があり、この惨状は明らかにそれを超えている。
辛うじて残っていた橋から噴水広場に渡ると、意外な人物を見つける。
「……あんたたちか。今ならあたしにとどめを刺せるよ。今のあたしには戦う力は残ってないからね」
傷だらけのしいなが蹲っていた。
「酷い怪我……先生! 手当てしてあげて」
「……そうね。でもその前に何があったのか教えてほしいわね。仲間がいるようだし、これが私たちを油断させる罠じゃないとは言い切れなくてよ」
「先生!」
「そんなこと言ってる場合では……!」
リフィルの冷静な主張はもっともだが、あんなに正面から必死で戦っていた彼女が今更こんな罠にはめるとは思えない。
しいなはリフィルを見上げ自嘲的に笑う。
「……はっ、見てくれ通り、陰険な女だね」
「……陰険で結構」
だが、事情は話してくれた。
ルインの街は、アスカード人間牧場から逃げ出した人を匿い、それがディザイアンに知られ、街の人達は全員牧場送り、街は破壊された。
しいながこんな所で怪我してることは、本人はドジっただけと嘯いていたが、こうも事情に詳しければ彼女が何をしようとしていたかは自ずと分かる。
「うわっ、助けてくれ!」
話が一段落した時、誰かの叫び声が聞こえてきた。
振り返ると、祭司が襲われていた。彼を襲っていた者は――
「クララさんだわ! こんなところまで逃げていたのね!」
しいなが傷だらけのその体を引きずり、祭司とクララの間に割って入っていった。
「やめろ、この化け物!」
クララはしいなを引き裂く。
そこにコレットが飛び出した。
「落ち着いて、クララさん!」
クララが腕を振るい、その勢いに煽られてコレットは地面に落ちてしまう。
「コレット! 大丈夫?」
「う、うん……」
コレットは何ともないようで、すぐ立ち上がれた。
「この娘、出血が酷いな」
しいなはただでさえ動かない体を無理に動かし、クララに引き裂かれ、傷が深くなっている。
これはレイラやクラトスでは治しきれない。治せるリフィルはしいなを助けようと動かない。
「先生、こいつを手当してやってくれよ!」
「先生! お願いします」
ロイドやコレットの懇願にリフィルはため息混じりにようやく了承した。
治癒術をかけられ、傷の治ったしいなは立ち上がる。
「……何で、あたしを助けたのサ」
「多分、あんたがあの人を助けたのと同じ理由だよ」
「……あ、ありがとう」
しいなは僅かに顔を赤くした。そして改めて、ロイドたちに話しをする。
「虫のいい話かもしれないけどあんたたちに頼みがあるんだ」
「頼みって?」
「この街の人には一宿一飯の恩義があるんだ。頼む、この街の人を助けてあげてくれよ! そのためならあんたたちと一時休戦して協力してもいい」
「わかった」
しいなの頼みにロイドは二つ返事で了承する。
「ロイド、本気なの?」
「私は賛成」
「コレットまで!」
「お前らは?」
ロイドがジーニアスやクラトス、レイラを見やる。
「構わんだろう」
「彼女が共に戦ってくれるなら、心強いと思う」
「えっと……姉さん……ごめん!」
リフィルは皆の様子に心底呆れた。
「もう! いいでしょう、好きになさい。考え方を変えれば四六時中監視できるってことだし……」
「ふん。あんたこそ寝首をかかれないよう気をつけなよ」
嫌味に嫌味で返すしいなは、端から寝首をかこうなんて思ってないだろう。
しいなを加え、北東にある人間牧場へ足を進めた。