呪い

牧場から逃げ出した人ならば、再び潜入する方法も分かるのではないかと、しいなの案内でハイマに向かった一行。
宿屋を訪ねると、女性がしいなに声をかけてきた。

「しいなさん!」
「ピエトロはどうしたんだい?」
「……亡くなりました」

その宣告に、皆驚愕する。

「何か言ってませんでしたか? 人間牧場のこととか」
「さ、さあ……本当にそこから逃げてきた人かどうかも分かりませんし」

聞いてもソフィアは何も分からないの一点張り。
冒険者たちの墓場に、ピエトロの墓もあるということで、手ががりもなく、見ていくことにした。

「墓を暴く……のは駄目でしょうね、やっぱり」
「罰当たりです、先生」
「とりあえず、お祈りしましょう」

墓に祈りを捧げるコレットに倣い、皆も目を閉じ祈る。

「あれ……?」

ふと、後ろから誰かが近付く気配を感じ取る。コレットも気付いたのか、振り向き声を出した。
その男は虚ろな瞳で、覚束無い足取りで歩み寄る。
男の顔を見て、しいなが驚く。

「ミコ……マナ……シ……シヌ……」
(ミコ……神子? 死ぬ?)

コレットの再生の旅は死ぬための旅だが、そのことを指しているとは到底思えない。

「ピエトロ! あんた死んだって……!」

しいなの言葉に、皆は驚きを見せる。
後から、ソフィアが追ってピエトロを見つけた。

「こんな所にいたのね」
「ミコ……シヌ……テンシ……シヌ……ニンゲン……ボクジョウ……チカ……」
「駄目よ。行きましょう」

ピエトロの手を引き、ソフィアは戻ろうとする。

「嘘をついたのね」

リフィルがそれを引き止める。

「この人が牧場から脱走した人なのでしょう!」

問い詰められ、ソフィアは足を止める。

「そうなのか!? 教えてくれ。どうやって人間牧場から逃げ出したんだ!?」
「イワ……オオキイ……チカ……ホウセキ……イワ……ドカス……ミコ……」
「岩……地下……宝石……?」

途切れ途切れの単語から繋ごうとするが、脈絡がなくて、分からない。分からないのはレイラだけでない。
もう少し聞こうとする皆をソフィアが止める。

「……もう放っておいてあげて!」

頑なに止めるソフィアにしいなの我慢の限界が切れる。

「あのな! アンタはピエトロを守ってればそれでいいかもしれないけど、こいつのおかげでルインの人はたくさん死んじまったんだよ! 少しは協力したらどうなんだい!」
「ピエトロだって……伝えたいことがたくさんあった筈なのに、呪いのせいでこんなことになってしまって……」
「でもその人はまだ生きている。亡くなった人は、怖かったことすら伝えられないんだ。頼む、協力してくれ」
「私たちは牧場に行きたいんです。脱出できたなら潜入だってできるはずでしょ? お願いします」

その熱意に、ソフィアも折れた。ただし条件付きだ。
ピエトロの呪いを解くこと。マナの守護塔にあるボルトマンが残した治癒術なら、呪いが解けるらしいという。
それに了承して、ようやく手がかりを教えてくれた。

「……この人、脱出してきたときに、牧場の庭から出てきたって言っていたわ。岩で出口を塞いできたって。お墓の中に彼の持ち物があるの。……持って行って」
「ありがとう。治癒術を手に入れたらまた来ます」
「さあ……行きましょう」

ソフィアはそれだけ告げ、ピエトロの手を引き去っていった。
その後墓を掘り起こせば、宝石が見つかった。ピエトロが言っていたのはこれのことだ。
宝石を手に、皆は再び牧場へ潜入するべく向かっていった。

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