仇
「クヴァル! 見つけたぞ!」
クヴァルは投影機で、何者かと話している様子だ。
「それがロイドかえ? 成程、面影はあるのぅ」
「やはり来たか」
彼らはロイドたちに目を向けるが、すぐに話に戻っていった。
「話を逸らさないでほしいですね、プロネーマ! あなたが私の元からエンジェルス計画の研究データを盗み出したことは明白なのですよ」
「しつこいのぅ。わらわは知らぬと言っているだろう」
「……強情な。流石、五聖刃の長の座を掠め取っただけはある。プロネーマよ。この劣悪種からエクスフィアを取り返せば、五聖刃の長は私となるでしょう。その時に後悔しても遅いのですよ」
「寝言は寝てから……と申すな。そなたこそ、ロディルの口車に乗って何か企んでおるようじゃが、ユグドラシル様の目、そうそう誤魔化せると思うでないぞぇ」
忠告めいたことを残して、プロネーマは通信を切る。
「魔導砲のことが漏れたのか? ……まあいい。そのエクスフィアを取り返せば、嫌疑など晴れるでしょう!」
クヴァルは杖を携え、戦意を顕にする。
「来るぞ!」
「やらせるか!」
「行くわよ、バリアー!」
リフィルがロイドに守りの術をかける。
「いくよ、ウィンドカッター!」
レイラはリフィルを守れて、クヴァルらを見渡せる位置を見出すと、魔術を放つ。
「魔神剣・双牙!」
「剛・魔神剣!」
案の定、ロイドとクラトスは前線に立ち、クヴァルに突っ込んでいく。
「降雷撃!」
「……ファーストエイド!」
クヴァルの雷を落とす一撃は厄介だ。リフィルがすかさず癒しの術をかけていく。
ふと、クヴァルがにやりと、笑みを浮かべながらレイラとリフィルを見やった気がした。そして、即座に詠唱を始める。熟練された術の詠唱は止めにくい。
「スパークウェブ!」
「っ!」
「フォースフィールド!」
レイラは反応が遅れてしまい、雷の魔術を受けてしまう。
「レイラ、平気?」
「は、はい……」
リフィルが癒してくれるが、受けた傷は大きい。
「立てるかしら?」
「何とか……」
リフィルに支えられながら立ち上がる。
次の瞬間、咄嗟に剣を掴み、それを受け止めた。
「気付かれましたか。あなたが倒れた時のあの2人の顔を見たかったのですがね」
いつの間にかロイドとクラトスの剣戟をすり抜けたクヴァルがレイラに杖を振りおろしていた。
「ただで倒れる訳にはいかない……!」
レイラの視界には、クヴァルに追い討ちをかけんとするクラトスが映っている。
「瞬迅剣!」
「ぐ……!」
そのおかげで杖を振り下ろそうとする力が弱まり、押し返せた。
「虎牙破斬!」
切り上げて、ついでに蹴りもお見舞いする。
だがクヴァルもただやられるだけでない。一瞬の隙をぬって、自らの周囲に陣を展開する。
「っ、クラトスさん!」
咄嗟にクラトスを突き飛ばして陣の外へ追いやるが、レイラはその中に取り残される。
「護方陣!」
「っあぁ!」
陣が消え、攻撃も止む。レイラは倒れ伏してしまう。
「レイラ!」
「私……よりも……」
焦ったクラトスが咄嗟に治癒術をかける。それをレイラは止める。彼は、治癒に専念しているわけにはいかないのだ。
「クヴァル!」
ロイドが剣を構える。その隣にクラトスも立ち。
「衝破ッ、十文字!」
2人で、十を描くようにクヴァルを貫いた。
「あと……一歩であったもの……を……」
クヴァルは抵抗できず、倒れた。
「やった……母さんの仇をとったぞ……!」
「……ありがとう」
「え? ……ああ、こっちこそ!」
万感の思いを込めて、ロイドはエクスフィアを撫でる。
クラトスも、そこには様々な思いが沸き上がった。
そんな2人をレイラはリフィルの癒しを受けながら見届けていた。
「……お母さん……」
誰にも聞こえない小さな声で、自分でも気付かない、無意識のうちに、呟いていた。