恋心と偽神子と

「石舞台の方、なんか騒がしくない?」
「うん、人が集まってるみたい」

気になって、上がってみたところ、そこには意外な人物が。

「こちらが世界再生の神子であらせられるコレット様だ」
「私は必ず世界を再生して、みなさまに平和をお約束しますわ」

パルマコスタで会った、偽神子の一行だ。

「へえ〜、神子様ってのはしっかりなさってるんだねぇ……」
「なんていうか神々しいねぇ。あんたもそう思うだろ」
「あ、はい。そうですね〜」

町人に呼びかけられてコレットがのんびりした様子で返す。

「おいおい……」

本物の神子がこうではどうしようもない。

「み、神子様の旅に寄付をしろってんだ」
「さあ、頼むよ、みんな」

そうして、偽物たちが人々からお金を集め出す。

「くそ! やめろ!」
「ちょっ、ロイド!」

ロイドが偽物たちの前に飛び出す。

「いい加減にしろ! この偽物が!」
「ああん? 誰が偽物だって?」
「いいんです、ジュード。この人たちも私が世界再生を成し遂げればきっとわかってくださいますわ」

動じない偽神子の様子に民衆は彼女たちを信じ込む。

「なんと慈悲深い神子さま……お前たち、神子さまを悪く言うな!」
「うるさい! こいつらはパルマコスタの総督府から再生の書をだまし取った詐欺師なんだぞ!」
「そうか……あんたたち、パルマコスタワインの……」

ジーニアスの訴えで、偽物がはた、と思い出す。

「我らの救い主たる神子を侮辱するこいつらを信用しては駄目だ!」
「そうさ。神子様を偽物扱いするとはひでぇ奴らだ!」

どっちが侮辱してるんだか、とレイラは内心嘲る。

「待ちなさい、みんな。落ち着いてお考えなさいな。世界を救う慈悲深い神子がディザイアンに苦しめられてる人たちからお金を巻き上げたりするのかしら」
「本当にあなたたちが本物なら、この街に旅業にいらっしゃる祭司様たちにもお会いできる筈でしょ?」
「なんだとぉ!」
「勝手なことを言うな!」

リフィルやレイラの理路整然とした主張も跳ね除けられる。

「リフィルさん! リフィルさんではありませんか!」

そこに駆けつけた人物がリフィルを見つけて喜々として声をかける。ライナーだ。

「みんな、待ってくれ! リフィルさんはこの石舞台の魔物を退治してくださったこの街の恩人だ。そのリフィルさんがいい加減なことを言うわけがない!」
「……そういえば、確かにその女性が前回の石舞台の巫女を務めたのだったな」
「そうか……そういえば……」
「じゃあ、この神子様たちが詐欺師だってのは……?」

ライナーの訴えでリフィルの顔を思い出した民衆が冷静さを取り戻していく。
それに偽神子たちが舌打ちする。

「旗色が悪いね。ずらかるよ!」
「そうですわね」

すかさず去っていく。彼らは逃したが、レイラは逃げ遅れた偽物の1人を捕らえる。

「うわっ!」
「あのバカが! 置いてくぞ!」
「あ、兄貴……!」

偽神子一行は彼らを見捨ててさっさと行ってしまった

「……さて、どうする? 私としてはこの人だけでも教会に引き渡すべきだと思うけど」
「待って! レイラ!」

コレットが割って入る。レイラは渋々、掴んでいた腕を離す。

「だいじょぶですか?」
「……お、俺……」
「怪我してませんか?」

コレットが純粋に心配そうに見つめ、偽物は顔を赤くする。

「俺……大丈夫……」
「皆さんから取り上げたお金、返してくれませんか?」
「う……う……分かった……」

お金が入った袋を素直にコレットに渡す。

「もう人からお金を騙し取ったりしちゃだめですよ。他のみなさんにもそう伝えてあげてくださいね」
「お、俺……捕まらないのか?」
「はい。えっと、兄貴さんの所へ戻っていいですよ。ね? みんな」
「コレットがそう言うなら、別にいいけど……」
「わかったよ。さっさと消えな」

教会に引き渡すべきだとは思うが、コレットが許そうと言うなら、そこまで強要することもない。

「あんた……優しい……綺麗でいい人……俺……あんた……好き……俺、あんたのこと忘れない……」

赤面しながら偽物は去っていく。残念ながらその想いは成就しなさそうだ、と特に気にすることもなくお金を返していくコレットを見てレイラは溜め息をついた。

「しかしお前さんたち、よくまあこんな危険なご時世にいつまでもふらふらしとるなあ」
「当たり前だろ。こっちのコレットが本物の神子なんだから」
「……なんじゃ? お前らも金の無心か?」
「……いいよ。別に信じてくれなくても」

ロイドは不貞腐れるが、ライナーがすぐさま気付く。

「この方の首の下にある宝珠をご覧下さい。これは過去の文献にも出てきたマナの宝珠です。これは本物の神子様しか身につけておられないものですよ!」
「まさか……」
「じゃあ、あの少女が本物の……?」
「すると……あなた方が再生の神子様ご一行か!?」
「ええっと、そうみたいです……」

ざわめく民衆が、更に驚きを見せる。

「な、なんと! 知らぬこととはいえ随分失礼を致しました。どうか拙宅にお立ち寄りください」
「あの……困ります。そんな気を遣わないでください」
「しかし……」
「私たちは再生の旅を急ぐ身です。お心だけ頂いておきますわ」

次にアスカードに来た際はもてなす、と言う町人の言葉に感謝の意を示して、アスカードを後にした。

「……コレットが苦しんでるのに、失礼な人たち」
「レイラ、そんなこと言っちゃダメだよ。ね?」

レイラはひたすら、溜め息しか出てこなかった。

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