聖獣と精霊

旅の最中、ユウマシ湖に立ち寄る。
観光名所になっているだけあり、草花は豊かで、水も綺麗な場所だ。

「あれを見ろ!」

ロイドが指さす先には、水の檻に閉じめこられた一角の白い獣が眠っている。

「綺麗……」
「ユニコーンだ! ユニコーンだよね、姉さん!」
「ええ。でもどうしてあんなところに……」
「驚いた! こっちじゃまだユニコーンが生き残ってたのか」
「こっち?」

しいながぽろりと零した言葉に疑問を呈するロイドたち。

「……あ、ああ。いや、何でもないよ」

リフィルがユニコーンを見ながら、思案する。

「……ユニコーンに接触できないかしら」
「ユニコーンの角にあるという癒しの力を利用するつもりか?」
「ええ。その通りよ。ユニコーンの角さえあればコレットやクララさんを助けられるかもしれない」

それに反応したのはロイドだ。

「そうなのか!?」
「可能性はある。治癒術はユニコーンの角を研究したことから始まったと聞く」
「でも先生、それって……」
「分かっています。でも、他に方法はないでしょう?」

レイラとしては気が進まないが、それはリフィルも承知の上。

「それなら、何とかしてユニコーンに近づかないと……」
「でも、どうやってあそこに近寄ったらいいの」
「潜れないかな?」
「息が続かないよ、きっと」

湖はそれなりの深さがある。

「くそ! なんとかならないのか!」
「……方法は、なくはないよ」

しいなの言葉に皆彼女の方に振り向く。

「どういうこと?」
「……こっちの世界にいるはずの……ウンディーネを召喚して水のマナを操ればいいのさ」
「ウンディーネって、精霊の?」
「精霊を召喚するったって、召喚士がいないじゃないか」
「……あ、あたしが。まだ契約はしてないけど、契約さえできれば……召喚できるよ」

意を決したように、しいなが召喚できると言う。

「しいなって召喚士だったんだ〜」
「符術士だよ! ……召喚もできるけどさ」
「召喚士は途絶えて久しいと聞いたけれど……」
「……色々、あるんだよ。どうするんだい。嫌ならあたしも無理にとは……」
「いや、ユニコーンの角は必要なんだ。頼むよ、しいな」
「……わ、分かった。じゃあ、水の封印まで行こう。ウンディーネはそこにいる筈だよ」
「ソダ間欠泉だね。行こう!」
「うん!」

湖から踵を返して、皆はソダ間欠泉へと足を向ける。

「……しいな、嫌?」

レイラの問にしいなが聞き返す。

「え?」
「契約するの、嫌がってるように見えたから」
「そ、そんなこと……!」
「……何があったのか知らないけど、しいなの心の持ちよう次第で、結果はどうにでも転ぶよ。そうしてたら、できるものもできなくなると思う」
「…………」
「……私が言えた口じゃないけどね」

レイラは自らの言葉に苦笑するだけだった。

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