ユニコーン

無事にユウマシ湖に戻ってきて、いざユニコーンとの対面だ。

「よし、頼むぞしいな! ウンディーネに俺たちを運んでもらってくれ」
「……待て。それは無理だろう」

ロイドの言葉をクラトスが引き止める。ロイドとコレットとジーニアスの3人は首を傾げる。

「どうしてですか?」
「ユニコーンは……清らかな乙女しか近付くことができないのよ」
「少なくとも私とロイドとジーニアスは無理だ」

ロイドがそれにぼやく。

「女だけしか近付けないなんて選り好みするなあ」
「神聖な生き物だからね。神聖さを保つため。諦めて」
「じゃあ姉さんたちだけで……」
「私は残らせてもらうわ。コレットとレイラでお行きなさい」

リフィルが告げると、しいなが慌てたように口を挟む。

「あ、あたしは資格なしだって言うのかい!?」
『資格?』

ロイドたち3人が揃って疑問符を浮かべる。
流石にしいなも顔を赤くして怒鳴るしかない。

「3人して声を揃えるんじゃないよ!」

クラトスが目の前の茶番に呆れたように溜め息をつく。

「……ではレイラとコレットとしいなで行けばよかろう」
「何で先生はダメなんだよ」
「大人、だからよ」
「ふーん?」

いまいちピンと来ないのか3人は首を傾げるだけだ。
こんな話を続けるのは恥ずかしいのか、しいなが話を切る。

「じゃ、じゃあ召喚するよっ!」

湖の端に立ち、表情は引き締まる。

「清漣よりいでし水煙の乙女よ。契約者の名において命ず。出でよ! ウンディーネ!」

しいなの呼びかけとともに、ウンディーネがその姿を現す。

「頼むよウンディーネ。あたしとコレットとレイラをユニコーンの所に連れて行ってくれ」
「わかりました。湖へ……」

ウンディーネに導かれ、水面を地面のように歩き、目覚めたユニコーンの元へ行く。
ユニコーンはコレットたちを見やり、驚いたように訊ねる。

『マーテル……か?』
「マーテル? 女神マーテルかい?」
「分からない……」

勇者の名をあやかって名付けることはあれど、女神の名はあやかりで名付けることは畏れ多いこと。マーテルといえば女神しかいないのだが。

「いいえ。私はコレット。彼女たちが……」
「しいなだよ」
「レイラです」
『マーテルではない……と? そんなはずあるまい。この気配、そしてこのマナ。盲いた私にもはっきりと分かる。お前はマーテルだ』

ユニコーンはコレットに向かい、はっきりと言い切る。

「私?」
『そうだ。私が生かされてきたのは目覚めたマーテルの病を救うため……。お前は同じ病を抱えているではないか?』
「分かるのかい! コレットが病んでいるって!」
『……分かる。尋常ならざる者として暴走している』
「尋常ならざる……? それって、どういうことですか?」
『言葉通りだ。マーテルと同じ……』
「コレットを助けてくれ。ユニコーンの角にはそういう力があるんだろ?」

しいなの懇願を断わったのは、コレット自身だった。

「あの……私はいいんです」
「コレット!」
「私は再生の神子になるために生まれてきたから、それでもいいんです。だけど、必ず人間に戻してあげるって約束した人がいるから……」

コレットはユニコーンの瞳を見、はっきり言った。

「その人は助けてあげたいんです」

ユニコーンは合点がいったように呟く。

『再生の神子……。お前は再生の神子だったのか。
持っていくがいい』

ユニコーンの角が輝き、その頭から離れる。
コレットの手に、角は受け止められる。
直後、ユニコーンの姿が薄れていく。

「どうしたんだい!?」
『我々にとって角は命そのもの。私の役目は終わった』
「そんなっ!」
『案ずるな。私から新たな命が誕生する。その新しい命が終わるとまたそこから新しい命が生まれる。そうやって我々は生き続ける。……永遠に生き続ける』
「ユニコーン……」

そう残して、ユニコーンは消えていった。
こうなることは分かっていても、どこか悲しくもあった。

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