謎の傭兵
「成程、この少女が今回の神子なのだな」
男はコレットを見やる。
その言葉にコレットははっと思い出したようにファイドラを振り返る。
「そうだ! 私、神託を受けなくちゃ! おばあ様、私はこれから試練を受けてきます」
「試練って?」
「魔物のことだろう。聖堂から邪悪な気配がする」
男の推察にファイドラは頷く。
「その通りじゃ。神子は天からの審判を受ける。しかし、神子様を守る護衛はレイラを除き皆ディザイアンの襲撃で倒れてしまったのじゃ」
レイラは俯いてしまう。たまたまこの場を離れていたおかげで難を逃れただけの話。レイラがいたとしも、共に倒されてしまっていたことだろう。
「それなら俺がコレットの護衛を引き受けるよ。レイラだけなのも心配だ」
「ロイドか……お前では心許ないのう……」
我こそはと挙手するロイドにファイドラが溜息を吐く。
ふっと、その名を耳にした男がロイドの方を振り返る。その瞳は僅かに見開かれていた。
「お前はロイドと言うのか……?」
「そうだけど……人の名前を尋ねる前に、まず自分も名乗ったらどうだ?」
「……私はクラトス。傭兵だ。金さえ用意してもらえるなら、私が神子の護衛を引き受けよう」
言われて、ようやく名を名乗った。更には神子を護衛してくれるという、有り難い提案付き。
「……背に腹は代えられんな。お願いしよう」
これほどの腕前を持つなら、断る理由もない。ファイドラは二つ返事で了承する。
「契約成立だな」
とんとん拍子に進んでいく話に、ロイドが慌てて口を挟む。
「ま、待てよ! 俺も行く!」
「ロイド。お前は足手まといだ。大人しくここで待っていろ」
クラトスの物言いにロイドは憤慨する。自分の力に自信満々なロイドとしては見過ごせない指摘だろう。
「な、何だと……! レイラ、お前もこいつに何とか言ってくれよ!」
「……え、でも……ロイドはここで待っている方がいいと思うのだけど……」
「レイラ……?」
いつもならレイラはロイドのやる事なす事に許しを与えていた。いつも最後には仕方ないからって許していた。現に今ロイドがここにいるのもレイラが許したからだ。
それなのに今は、ロイドに反対している。いつもと少し違うレイラにロイドは訝しむ。
レイラの意識はロイドのことよりクラトスの方を向いていて、少しぼんやりしている。
「あの……傭兵さん……」
見かねたコレットがおずおずと口を開く。
「ロイドも連れて行ってくれませんか?」
「しかし……」
「お願いです。私、ロイドがいないと不安です」
想いを寄せている人が傍にいてくれた方がコレットにとっては遥かに心強い。
「……勝手にしろ」
神子に懇願されては強く出る訳にもいかない。クラトスは渋々といった体でロイドの同行を了承した。
「コレット! ありがとう!」
「いいの。ほんとのことだもん」
ロイドが笑うとコレットも微笑んだ。
「よし、行くぞジーニアス!」
「え、ボ、ボクも行くの!?」
ジーニアスは驚いた声を上げた。まさかこの先まで付き合わされるとは思っていなかっただろう。
「子供の遠足ではないのだがな」
そんなロイド達の様子にクラトスが呆れた声を上げた。