マーテル教会聖堂
「あ、待って、ロイド」
コレットと浮き足立たせながら聖堂に入ろうとするロイドをレイラが引き止める。
「どうしたんだよ、レイラ」
「……癒しの力よ……」
治癒術を唱え、先程の戦いで負っていた傷を癒す。
「レイラ、癒しの術を使えたのか!?」
ロイドが驚いた声を上げる。ロイドだけじゃない。コレットやジーニアスも驚いている。
レイラ自身も首を傾げて困惑した。今まで使えるなんて思いもよらなかったのに、今は当たり前に、使えることを最初から知ってたような感覚。
「……そう、みたい。どうして……それに、魔術も……」
「きっと、記憶がちょっとだけ戻ったのかもね。よかったね、レイラ!」
「……記憶が?」
コレットの喜びの言葉にクラトスが聞き返す。
「レイラは3年前にイセリアの近くに傷だらけで倒れてて、記憶がないんですよ。今も、自分の名前しか分からないんです」
「本当なのか?」
「……はい」
嘘を吐く理由もない、応えれば、クラトスは閉口する。
「……そうか」
しばしの間を置いて、それだけ、言い残した。
「……今は私のことより、神託の方が先でしょう。行こうか、コレット」
「うん!」
レイラが歩き出すとそれに皆も続いた。
聖堂の奥、祭壇へと向かおうとするも、結界で通路は閉ざされていた。
「通れないね」
「多分、ソーサラーリングで開けるんだよ。この聖堂に安置してあるの」
ソーサラーリング。マーテル教会の聖具。それがあれば大抵のからくりを解くことができるという品だ。
「じゃあ、取りにいかなきゃってこと?」
「うん。確か、こっちの方だよ」
コレットに先導されて別な方へと歩む。
不意にコレットが不安げな声を出す。
「今日は何だかいつもと違うみたい」
「そうなのか?」
「うん……」
普段は魔物がいない場所に魔物がいるせいだろう。心なしか、コレットの足取りも少し重い。
「不安になるのは分かるけど、魔物のことなら心配いらないだろうし、大丈夫」
「どうしてだ?」
「クラトスさんがいるから」
しんがりを務めるクラトスに目を向けたレイラの言葉にロイドは機嫌を損ねたのか不貞腐れたような顔をする。
「レイラ、やけにクラトスの肩持つよな」
「……よく分からないけど、クラトスさんなら大丈夫、って思うんだよね……。多分、さっきの強さを見たからかな……」
それがロイドには気に入らないのか、ますます機嫌を悪くしてしまった。
魔物との戦闘など少々紆余曲折はあったが、無事ソーサラーリングを取ることができた。
「ワクワクするよな! 早く使ってみてえ!」
「はいはい。新しい物見つけたらすぐこれなんだから」
今は浮かれているがすぐに飽きることは経験上分かりきっているレイラは溜息をついた。
「そうして見るとホント、レイラが姉さんでロイドが弟って感じだよね」
「そう?」
「そうだよ。友達って言うよりは姉弟って感じ」
「どうせ弟になるならジーニアスみたいな賢い子だったらよかったのに」
冗談交じりに口を尖らせたレイラにジーニアスは苦笑する。勿論それが本気ではないことはよく分かっている。
「それはそれで嬉しいけど……。でもさ、レイラってロイドにすごく優しいよね」
「うん、何だか他人って気がしなくて。ひょっとしたらジーニアスの言う事も当たってたりして」
ロイドの浮かれた様子につられてか、レイラやジーニアスもそんな軽口を叩いていた。
祭壇の間へと続く通路まで戻り、ソーサラーリングの炎で通路を開く。
「何だ。こんなもんかよ」
「もう、やっぱりすぐ飽きる」