救いの塔

レイラは1人、塔に辿り着き、そのまま階段を登る。

「コレット!」

コレットは石版に手を置き、開いた入口から中に入ろうとしているところだった。

「…………」
「大丈夫。行こう」

コレットは頷き、中に足を踏み入れた。

中に入ると嫌でも目に付く、おびただしい数の棺桶。

「……!」

コレットの体が震えだす。感覚も声も無くても、この場に恐怖していることは伝わる。
マーテルを受け入れられなかった神子たちの収められた数々の棺桶。改めて目の当たりにしたそれに、レイラも、背筋がぞっとした。

「あ……」

足がすくんで、歩けない。気のせいか、心臓が大きく、嫌な音を鳴らしている。

「私……私……」

――私はここに来たことがある。この先に何があるか知っている。
何故知っているのか。それは私が、紛れもない――

「ッ!」

頭に痛みが走る。今までの比ではない。
痛みに耐えられず、レイラはそのまま意識を暗闇に落とした――


「……!」

倒れてしまったレイラに驚き、コレットはその背を揺さぶる。
すぐさまレイラはクラトスに抱えあげられ、どんな状態にあるのか確認できなくなった。

「レイラのことは気にするな。それより神子よ、お前にはすべきことがあるだろう」

レイラの容態は気になるが、彼女に構っている場合ではないと。コレットが今最優先すべきは、シルヴァラントの再生。それは、確かにレイラの望むところでもあった。
コレットは意を決したように、先にある転移装置に足を置いた。

 *

剣と剣が打ち合う音、魔術の放たれる音。そんな音が耳に入り、レイラは意識を微かに取り戻す。

「う……ん……」

レイラは封印の間に横たえられていた。
まだ意識がぼんやりしていて体が上手く動かせられない。横たわったまま、辛うじて首を動かし、目線をコレットに。
彼女の瞳には光がなく、何の感情も宿していなかった。
彼女は今、完全天使となり、心を失っている。

「コレッ……ト……」

彼女の笑顔も、綺麗な心も、失われてしまった。
それはあるべき姿の筈なのに、そうでないと、違うのだと、ぼんやりした意識の中ではっきりと思う。
ふと、今も続く剣の音に、目を向けると、視界に飛び込んできた光景にレイラは目を見開く。
ロイドたちが戦っている。相手は――背から天使の羽を広げたクラトス。
それを認識した途端、弾かれたようにレイラは立ち上がる。朦朧とした意識の中、体だけが何かに憑かれたように機敏に動く。

「レイラ!?」

ロイドがクラトスに剣を振り下ろそうとする。その間に割って入る。
驚きの声を、剣を、体に受けながら、レイラは再び、意識を失った。

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