戻りし居所

「……っ!」

目を開いてすぐに飛び込んできたのは、白い天井。
埃1つなく、徹底的に管理された空気。地上とは全く違う無機質なそこは。

「ウィルガイア……私、帰ってきた……?」

壁や床の色も、机やベッドの配置も、何もかも3年前にここを出た時のまま。

「どうして……」

救いの塔で、倒れてしまったレイラ。次に目を覚ました時――

「っ!」

そうだ、目を覚まして、ロイドたちとクラトスの戦闘に割って入り、そのまま――クラトスを庇いロイドの剣を受けた。
そこまで思い出して、レイラは服を開き自分の体を見る。そこには傷跡ひとつ残っていない。
どころか、服をよく見れば、旅をしていた時のものでなく、クルシスの法衣を着ている。誰かが、切れて血で汚れた服を着替えさせ、怪我を治してくれたようだ。
誰が――考えようとして、突然鳴り出した音に考えを遮られる。
音の正体は机にある通信機の呼出音だ。咄嗟に通信機を取る。

「は、はい!」
「レイラ様、クラトス様が面会を希望されています」

何故、と無機質な声を聞き一瞬思うが。

「……部屋に通してください」

それだけ返事すると、通信は切れた。
程なくして、部屋の扉が開き、旅をしていた時とは違う服を纏うクラトスが入ってくる。彼の入室と共に扉はまた閉まる。

「……傷はどうだ」
「綺麗に、治ってます」
「そうか」
「……あの、何が、あったのですか?」
「…………」
「ロイドたちはどうしたんですか?」
「…………」

レイラが問うても、クラトスは答えてくれない。痺れを切らして、レイラはクラトスに詰め寄った。

「答えてください。私の知りたいこと、全部!」
「…………」
「お父様!」

レイラのその言葉にクラトスが目を見開く。

「レイラ、やはり記憶が……」
「え、あ……」

ようやく気付いた。
記憶が、全て戻っていることに。

レイラ・アウリオンはクルシスの天使。そして、クルシスの四大天使クラトスの娘。
デリス・カーラーンにて、幼き頃にクルシスの輝石を与えられ天使の力を手にし、剣、魔術や治癒術を覚え、様々な知識を学んで育った。
3年前、シルヴァラントの神子の監視の任に就き地上に降り立って、イセリアに向かおうしていた。
そこでどういう訳かレネゲードと鉢合わせて、彼らはレイラを連れ去ろうと襲いかかってきた。その時攻撃を受けたレイラは崖から落ちてしまった。
命は取り留めたが、肉体的にも精神的にも傷を負ったレイラは全てを忘れてしまった。
それが、彼女のこれまで歩んできた人生。ずっと知りたかったこと。
クルシスはディザイアンの上位組織。つまり、今まで苦しまされ、憎んだディザイアンの上の立場に彼女はいたのだ。

「私……は……」

信じられないような事実にレイラは錯乱し頭を抱えた。

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