これまでのこと

「私……私……」
「落ち着け。落ち着いて、息をするんだ」

クラトスに言われるままに深く息を吸い、吐き出す。そうしていくことでレイラは昂っていた気持ちが収まってくる。
落ち着き、頭を上げればクラトスがまっすぐ、レイラを見つめていた。

「……全て分かっているのならば、隠すことはない、か」
「…………」

クラトスは、救いの塔で起きたことを語り始めた。
祈りを捧げたコレットは完全天使と化した。ロイドたちはコレットを取り戻すべく、本性を顕にしたレミエルと戦い、倒した。けれどロイドたちにコレットを元に戻す術はない。
クラトスはクルシスとしての正体を現し、ロイドたちと戦った。それが、レイラの見た戦いだ。
レイラがロイドとクラトスの間に入り、倒れた直後、ユグドラシルがその場に現れた。
ユグドラシルはロイドたちを殺そうとしたが、そこをレネゲードに救われ、コレット共々彼らの元にいるだろうということだ。

「生きているんですね……レネゲードが……」

レイラはほぅ、と息をつこうとして、止めた。

「……駄目。レネゲードは駄目」
「どうした?」
「駄目です、レネゲードの元にいたらロイドが逆に危ない……! 私、3年前レネゲードに襲われたんです! そのせいで傷を負って、記憶をなくして……」
「何だと!?」
「……彼らの目的は分かりませんが、そのままではロイドが危ないかもしれない……」
「だとしても、ロイドは1人ではない」

そこでレイラは思い至る。ロイドの傍にはジーニアスも、リフィルも、しいなもいる。彼らならロイドを窮地から脱してくれる。

「そう、ですね。私、頭がぐちゃぐちゃで、混乱してました」

レイラは自嘲する。さっきに比べて、気持ちも随分と落ち着いた。
――だけど、

「……分からないんです。今私がどうするべきなのか。このままクルシスに戻るべきか、ロイドたちと一緒にいるべきか……」

コレットを守りたい一心で過ごし、ロイドたちと笑いあった3年の時は、レイラを変えていた。その変化に戸惑うはレイラ自身。

「……すまない、レイラ。私がお前を連れ帰ったりしなければ……」
「……いいえ。私が、選べないだけですから」

クラトスの力になりたくて過ごした十数年が、レイラの心を揺らがせる。
その想いを利用されていたと知れば、迷わず選べるだろうに。

「レイラ……」

それを話してしまうか、クラトスは思案する。が、口を閉ざす。レイラの十数年を否定するような言葉をかけるのは憚られる。

「……何を信じるか、それはお前自身が決めることだ」

クラトスはそれだけを告げて、部屋を後にした。レイラがどうするか、クラトスには確信が持てた。

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