新たなる旅立ち

「失礼します、レイラ様。ユグドラシル様がお呼びです」
「分かりました。すぐに向かうと伝えてください」

部屋に入ってきた天使に、先程までの弱い表情をおくびにも出さず、レイラは答える。


「レイラ。お前が3年前に消息を絶った理由はおよそクラトスから聞いた」

玉座に悠然と座るユグドラシルの目の前にて、レイラは跪きそれを聞いていた。

「申し訳ございません」
「お前の代わりにクラトスが監視の任に就き、神子の旅に同行したことを肝に銘じておくのだな」

クラトスの力となりたいレイラにとって、クラトスの手を煩わせたことは何よりの屈辱となると、ユグドラシルは見ていた。

「…………」

だがレイラは眉一つ動かさない。
意外に思いながらも、ユグドラシルは話を続ける。

「コレットは今、テセアラにいると、あちらの神子から連絡があった」
「テセアラに、ですか?」
「そうだ。どうやら、コレットを元に戻そうとしているようだな」

テセアラにはレネゲードによってエクスフィアの技術がもたらされ、その研究が進んでいる。当然、クルシスの輝石についても。

「そこで、お前にはテセアラに行ってもらい、コレットの回収をしてもらう」
「はい……」

ユグドラシルの用はこれで終わり。レイラは立ち上がりその場から離れて行った。
その背中を一瞥してから、ユグドラシルは傍で控えているプロネーマに指示を出す。

「プロネーマよ。レイラを監視しろ」
「は。もし何かあれば……」
「捨ておけ。その時はコレットのことはお前に一任する」
「お言葉ですが、もし裏切るようであれば始末するなり処置をするのがよろしいかと……」
「どうせあいつ1人裏切った所で何もできはしない」

そう言って、口元を歪めた。
彼女の想いを利用し都合のいい駒として生かしていたが、所詮は人間。重要なことを彼女は何も知らない。裏切ってもクルシスに何ら影響がないのだから、わざわざ始末した所で余計な手間でしかない。

レイラは自室で旅支度を整えながらも、考え続けていた。
そもそも、コレットの体はコレットのもの。マーテルのものである筈がない。あの笑顔を、綺麗な心を、消してしまっていい筈がない。
しいなが迷うのは人々に苦しんで欲しくないから。どちらかの世界が苦しむなんて、間違っている。
答えなんて、最初から分かりきっていた。決めてしまえば、自分は何を迷っていたのだろうとさえ思えてくる。
支度を終えたレイラは部屋を出る。
大型転移装置で塔を降りようとした時、クラトスに呼び止められた。

「……どうするか、決まったようだな」
「私は……」

返すレイラの瞳は、強いものが宿っていた。

「コレットを助けて、片方の世界が犠牲にならない方法を探す。そのために、私はここから再び、出発します」
「……そうか」

クラトスは満足気に笑みを浮かべた。そんな顔、初めて向けられたとレイラは僅かに面食らう。

「……ありがとうございます……お父様」

レイラはふわり、と笑みを浮かべてクラトスに背を向ける。悔恨のない、決別。
目指すは、テセアラの地。

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